「まずは菊正を買おう!」
山谷のボランティアを終えて、私と和田さんは府中駅で待ち合わせた岡さんと一緒にカトリック府中墓地に向かう小金井行きのバス停を探した。
バスはすぐに出発だったので、そのままバスに乗った。
菊正は遠藤氏のよく飲んだお酒であろう「菊正なら問題なし」と奥さんの順子氏の書いた「夫の宿題」にあった。
10分も経たない内に府中墓地近くのバス停に着き、まず近くのスーパーに菊正を探しに行った。
菊正はあったにはあったものの一升だったので、さすがに遠慮し、近くのコンビニ行って見ると、ちょうど良い500ミリのものがあった。
紙コップ、裂きイカ、ビール、500ミリの菊正を買い込んで墓地に向かった。
御花はどうしようかと思ったが、まあ、お酒があれば、と言う勝手な言い訳で買わなかった。
府中墓地は住宅地のなかに長く長方形にあり、大きな木が芝生の広場とかあるのかと思っていたが、そうしたものがなく、ただ静かなたたずまいのなか、夕陽を浴び、十字架のお墓がいくつも立ってた。
和田さんはまず円谷英二氏のお墓に連れて行ってくれた、そこには小さなゴジラやモスラ、ウルトラマンたちが墓守をしていた。
そこから遠藤氏のお墓はあまり離れていない場所にあった。
飾り気のない質素なお墓に一メートルぐらいの梅の木があり、その葉はもう落ちていた。
一週間以内に誰か着たであろうことを語るしおれた御花がいけてあった。
缶コーヒーと小さなボトルのスパークリングのワインが恥ずかしそうに墓石の右横に備えてあり、またそれが寒そうだった。
11月2日死者の祝日{カトリック教会で全ての死者の魂のために祈りを捧げる日}で、11月は死者の月にあたると、和田さんは教えてくれた。
ならば、ちょうどいいお墓参りになると、三時過ぎ、冬の陽はもう暮れ始めていたが買い込んで来た菊正を紙コップに入れ、まず遠藤氏のところに置き、それから、暖をとるように私たちも菊正を頂いた。
{つづく」