京王線は3分遅れて新宿駅に着いた、そのため、南千住にはいつもより一本遅れた電車で到着した。
すでにボランティアは白髭橋に向かっていた。
急いでMCに向かうとしていた私だが、センターの前ではおじさんたちがたむろしていた。
私が「おはよう」と挨拶すると、皆、「おはよう」と返事をしてくれた、そのなかから一人のおじさんが私に近づいて来た。
彼は私に開口一番にこう言った。
「昨日、そこで人が亡くなっていたんだよ。オレが第一発見者なんだ」
それは福祉センターの門の前だった。
彼が足で示したその場所には白のチョークで印があり、小さな黒くなった血痕があった。
「まだ血があるでしょ。オレが警察を呼んでさ。警察が心臓マッサージしていたけど、ダメだった。オレが見つけた時にはもう息をしていなかったんだ・・・」
「そうだったんだ・・・」
第一発見者の彼は私を見るなり、すでに半分以上無くなって行ったポテトチップスを荒々しく食べながら話し掛けてきた。
彼は耳の悪いので耳元で大きな声で話し掛けないと聞き取ることが難しい、そのため相手の話していることをあまり聞こうとしない、吐き出すように話すだけ話すと、私から少し離れ、ポテトチップスを頬張った。
だけど、私が大きな声で話すと、聞こえるだろう耳の方を私に向けた。
「昨日の何時だったの?」
「夜八時だよ、自分がセンターから出て来ると、寝ていて。見るとどこも動かなかったんだ・・・」
「そうなんだ・・・」
彼はいつもこうした哀しいことを私に教えてくれる。
その度、彼がほんとうに伝えたいことは、死人を見たと言う事よりも、むしろ彼の心の傷のこと、ショックだったこと、そして自らが亡くなった人と同じ苦しい境遇に置かれていると言う事だろう。
そのことも痛いほど感じた。
何をどう言っていいのか分からず、ただ彼の痛み苦しみを私は私のうちに容れ込んだ。
山谷の場合、路上で寝ていても、特に変わったことではない、酔っているのだろうと他人は思うのである。
例え脳梗塞や脳出血などの病気で倒れていたとしても、たぶん、そのままになってしまうだろう、それが今回のような行き倒れになってしまう。
私たちはそうした人たちに接しているのである、そのことを深く思うことにより、必ず愛は深まっていく。
哀しみをそのままにしておく必要はない、哀しみを愛に変えることこそ、私の啓示であろう。
そのために耳の悪い彼は私を待ち、私の前に現れたのである。