金曜日は朝一番に近所のホームセンターのなかにあるトリミングの店に行き、あんの爪切りをしに行った。
もう歩いてホームセンターには行けなくなった、と言うのは、あんはすぐに気が付く「あの爪切りに行くのね、嫌だァ!」とホームセンターまでの道のりの半分も来ないところから引き返そうとしたり、あんなりの地団駄を踏んだり、終いには抱っこをしなくては行けなくなってしまったからである。
それから車で行くようにしているが、あんはその車からも出たがらない次第である。
が観念して、車を降り、そしてカートに乗せられるがブルブル震え始め、自慢の尻尾はだらんと垂れていた。
しかしこの日は良かった。
いつもあのトリマーさんが切ってくれると良いなと期待していた、一番上手いトリマーさんがあんの爪を切ってくれた。
爪を切る前にあんをなるべく安心させてくれていたのだろう、声を掛けていたその姿を私は外から安堵しながら見つめていた。
私はあんのドキドキを私のうちに感じながら、あんを見たり見なかったりしながら、終る時をただ待った。
あんは怯えながらも良い子で爪を切ってもらった、部屋から抱っこされて出て来たあんは自慢の尻尾をいつものようにくるりと巻き上げていた。
「今日は少しだけ後ろ足の爪を切る時にワンワン言いましたが、あんちゃんは噛まないことが分かっているから安心です。柴犬はパクッと噛む子が結構いるんです」
「そうですか、そうですよね。大変ですよね」
確かにそうだ、噛む犬もいるだろう、そして噛まれながらも爪は切らなくてはいけないのだろう、やはりトリマーさんも大変な仕事だとつくづく思った。
ちなみにこのトリマーさんは私の同級生の娘さんである、ほんとうに親しみやすい可愛らしい子で会うと気持ちが良くなる、きっとそれはあんも同じだと思う。
爪切りの拷問から解放されたあんはもう意気揚々であった、しおれた尻尾はその記憶すらもうないかのようであった、それを私自身も感じた。
天気良く暖かな春の陽射しを浴びている、意気揚々のパセリとペパーミントの苗が目に映った。
「鉢植えにしよう」と思い、それを買って帰った。
いまもベランダで二つの鉢をぼんやりのんびり眺めながていた。
なんとも気持ちが良いのである、春をみんなで愛でているようで。