新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

氷の中から

2024-08-09 10:26:26 | Short Short

氷の中から見る外側は、視界がぼやけていて、光がいっぱい屈折して反射して、とてもきれいだ。この前理科で習ったプリズムってこういうことなのかな。
そして何よりも、ここは守られていて安全だ。

不思議と冷たくはないんだよ。
気づいたらぼくは氷の中にいて、分厚い壁に守られていた。
きっかけは、もう忘れちゃったな。

ここから花火を見たときは、四方八方、ぼくの周りのあちこちで輪っかの光が弾けて圧倒された。それはとても幻想的で、やっぱり全部がぼやけていた。

今はそれくらいがちょうどいい。
はっきりとした世界は苦手だ。
「外の方が鮮やかだよ」って大人たちは言うけれど、鮮やかだからいいとは限らない。

ぼくの氷は時々強い日差しに負けそうになる。みんながぼくの壁に向かって強いものをぶつけては「そんなところから出てきて、一緒に楽しもう」なんて言う。

みんなは知らないんだ。
あやふやでぼやけて、それだから綺麗なものがあることを。それだから守られることがあることを。
雪の結晶が綺麗な形で張り付くことも、花びらがくるくると降りてきて、ピタリとぼくに微笑むことも。

ぼくはちゃんと知ってるよ。
青く爽やかに思い出す日がくることを。
そしたら一緒に笑ってよ。サイダーみたいな夏だったって。ね。