Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『完全恋愛』牧薩次のミステリ

2016-01-01 10:00:01 | ミステリ小説
              

ミステリ作家の辻真先氏の別名義のミステリです。ツジ・マサキの文字を並べ替えればマキ・サツジになるアナグラムです。

物語の舞台背景が昭和二十年から平成の二桁の時代までとなっています。長い時間の流れのなかで進駐軍の大尉の殺人事件と大企業の社長の娘とその大企業の社長の死が描かれます。

そして二千三百キロを飛んだナイフ、鉄壁のアリバイ等々ミステリらしい仕掛けが施されています。仕掛けと云えばこの本の謳い文句に「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ、
では他者にその存在さえ知られない恋愛を完全恋愛と呼ばれるべきか?」とあります。これはある意味ネタバレになる言葉です。しかし、作者はあえてこの一文を載せています。

それは一片は読者に推察されてもかまわない、しかし背景に隠された真相は見抜けないという自信たっぷりの態度と云えます。

そのとうり読後は作者にすっかり騙されていたことに気づきます。この、してやられたという爽快感がミステリの醍醐味です。

最初からいろいろな仕掛けが施されています。途中で少し退屈に思う部分もありますが、そこは気を抜かずに注意を怠らずに読み進めなければいけません。
物語の途中途中に世相を表す出来事や社会現象が脚色なくそのまま書かれています。でも油断してはいけません作者は狡猾です。

あらゆる手を使って読者を騙そうとしています。物語の中で語られいるように本格物のルールでは作者は何もかもあからさまににする必要はありません。

隠されている部分を想像し推理するのは読者の責任です。作者はフェアにキチンと手掛かりを示せば良いのです。

どれとどれをどう結び付けるのかそれは読者の責任です。あり得ない、アンフェアだと騒ぐのはこの本に限っては難しいでしょう。

最後に、気づいていたことを隠したまま知らぬふりでいた主人公のポツリと漏らした一言が最後のシーンを引き立てる憎い演出で物語の幕を閉じます。

全体に散りばめられた伏線の見事さと、長い時間のなかで描かれている物語がやるせない気分にさせる一つの恋愛物語で、そこにミステリを嵌め込んだ

作者の手腕が光る一冊と云えます。読後感も悪くなく未読の方にはお勧め出来る一冊です。

              
コメント
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