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聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 38

2021年09月01日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
 担任の黒田との朝の挨拶を済ませる。黒田はぐるりとクラス中を見回すが、最終的な視線は恵一郎にあった。恵一郎は気持ちが悪かった。
「まあ、その、何だ……」黒田はこほんと咳払いをする。「みんなが無事高校に進学出来た事を、先生は嬉しく思っている。同じ高校に通う者もいるだろうし違ってしまう者もいるだろう。それでも、みんなには、いつでも会える仲間でいてほしいと思っている」
 ……そうか、僕には共に通える仲間がいないんだ。そう思った恵一郎は、ついさっきまで、勝也を言い負かした(と本人は思っている)爽快感に酔いしれていたのが嘘のように、波がすうっと沖へ引いて行くように、急に弱気になってしまった。
 恵一郎が通う事となる『聖ジョルジュアンナ高等学園』は上流社会の子たちが通う、一種特別な学校なのだ。平凡な自分の持つ平凡な常識は通じないはずだ…… 恵一郎は抱いた不安を、何とか克服できたと思っていたが、ぶり返してしまった。
 両親に入学を止めたいと言ったら「だから言ったじゃないか! これからどうするんだ?」と馬鹿にされ、入学しても一日目で退学となって「何やってんだ、お前はぁ!」と校長と担任に罵られ、勝也と取り巻きたちに囲まれて「おかえり。さあ、苛めの続きでも始めようかな」とにやにや顔で迫られ、典子は「わたし、素敵な同級生とラブラブなの。だから、こっちに来ないでね」と冷たくあしらわれ、近所の人たちに「あの子よ、分不相応は破滅をもたらすの実例ね」と堂々と陰口をたたかれ……
 唯一の頼みの綱だったマグロ漁船もすでに就航してしまい、沖へと進んで行く船の姿を夕日の映える港のコンクリートの上に膝を突いて、届かぬ手を伸ばしながら夕日に溶けて行く船を見送っている自分の姿が、恵一郎には見えた。
……ああ、終わりだ! やっぱり僕はこうなる定めなんだ!
『聖ジョルジュアンナ高等学園』の入学式当日に理事長が「さあ、みなさん、珍しい生き物を飼いました。平凡な庶民の代表、岡園恵一郎君です!」と恵一郎を紹介し、スポットライトが当たり、周囲からは馬鹿にした笑い声が流れてきて、それが絶えることがない。くらっとした恵一郎は隣の子に寄り掛かろうものなら「やめろ! 平凡がうつる!」と避けられ、その場に倒れた恵一郎を、ただただ薄気味悪いものの様に遠巻きに見ている同級生たち。運転手の木村が舌打ちをしながら恵一郎の襟首をつかみ、ずるずると引っ張って外へと連れ出され、校門から叩き出されて「二度と来るな、この平凡野郎!」と罵られ、その場に何故かいる理事長が微笑みながら「やっぱり、平凡は使い物にならなかったわね。みんなの娯楽くらいには使える才能があると思ったのに」とため息をつかれ、校門は重々しい音を立てて閉ざされる。
 ……あああ、どうしよう! どうしたら良いんだ! どこへ行けば良いんだ! 僕にはもう逃げ場はないじゃないか! 恵一郎は頭を抱えた。


つづく

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