わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

レヴェナント 蘇りし者(激ネタバレ注意)

2016-01-23 | 映画・ドラマ・本
 劇場で見るもんじゃありませんでした。色々とエグエグです。イテテだったり、ウゲェ…だったり、食べ物はことごとく激マズそうで、舞台は厳冬のモンタナとサウスダコタだけに、ずーっと超寒そうで、なんだか体の芯が冷えてくるような気すらしました。単に劇場が寒かっただけかもしれませんが。

 20世紀フォックス社の公式あらすじを紹介しますと:

 実際の出来事に着想を得た「レヴェナント(死んだはずだよ、お富さん的な、帰ってきた亡霊というか幽霊みたいな人)」は、一人の男の生き残りをかけた壮大な冒険と、人間の精神がもたら凄ましいまでのパワーを捉えた作品である。未踏のアメリカの大自然の中、伝説的開拓者、ヒュー・グラス(ディカプリオ)は熊に襲われ大怪我をするが、同行していたハンターの一団に見捨てられて、森に残される。生き残るためにグラスは、想像を絶する哀しみと、盟友であったはずのジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディー)の裏切りに合う。意志の力と家族への愛のみに導かれ、グラスは生存をかけ、贖罪を求めて、厳しい冬に立ち向かいつつ、過酷な旅を続ける。(わにこの意訳)

 なんか少し「え?」って気もするけど、とにかくレオ様がひたすら不運な目に会い、苦労し続けるお話です、正直、なんで生きてるんだ、アンタ?!という状況が何度もあり、その度ボロボロになるんだけど、そこは主人公なんで、ちゃんと生還して、しかも回復力が凄い。リアリティーを出すために、CDではなく、実際にアメリカのみならず、カナダやアルゼンチンの厳冬の中で撮影したそうで、何度もノミネートされているのに一向にオスカーを受賞できないディカプリオさん(今回もノミネートされてます)には、努力賞を進呈してもいいのではないかと。本人は撮影中の怪我は全く無かったそうですが、寒いのに川に入らにゃならんわ、怪我のメイクアップには5時間かかり、本物の馬の死骸に入ったり、ベジタリアンなのにバイソンの肝臓かじったりと大いに頑張ったし。ただし、レオ様を襲うクマは流石にCGだそうです。ここまで本物にこだわったら、レオ様死んじゃう~

 音楽は坂本龍一教授。グラスとフィッツジェラルドの格闘シーンの、オリエンタルと敢えて音を外したバイオリンの醸し出す音楽は、緊張感を盛り上げるには役立っていなかったような。いえ、いい曲だとは思ったんですけどね。なんとなく、思い出したのは劇場版の「アキラ」とか「攻殻機動隊 ゴースト・イン・ザ・シェル」の音楽。つまり、どっかで聞いたような感じで、新しさに欠ける気がしました。ある意味、安定のリューイチ・サカモト。

 ここからは壮絶にネタバレなんで、知りたくない方は見ないでね。



 主人公、ヒュー・グラスは実在の人物です。1823年の8月、クマに襲われて大怪我をした後、同行の二人に置いて行かれ、サバイバルしながら、この二人に復讐を果たすため生き延びました。ノースダコダには、彼に因んだヒュー・グラス・レジャー地区があるそう。実際には、厳冬の出来事ではなく、山岳地ではなく草原が舞台。ヒュー・グラスに息子はおらず、結婚していたかすら記録にないのですが、映画のグラスには、パウニー族の女性との間に生まれた息子がいます。彼女は、まだ息子が幼い頃に、村を襲った兵士によって殺されました。グラスは伝説的ハンターとして、ヘンリー隊長率いる狩猟チームに、息子と一緒に参加しています。あのレオ様が、こーんな大きな息子の父親役をするトシになったとは…

 グラス父子の属するチームは、彼らの集めた毛皮を奪おうとするアリカラ族の襲撃にあい、少人数が命からがら船で逃れ、奪われなかった毛皮を持って前哨地に向かう途中、グラスは子熊を連れた母親グマに襲われます…ってか、子熊がいるのに一人でウロウロしてる「伝説の開拓者」って?しかも、一度目襲われて、すぐ逃げないから、また襲われて、アンタ、なんで生きてるの?状態に。やっと、クマの左肩に一撃の上、何度をナイフを突き立てて母グマを殺します。母を亡くした子熊たちは生き延びることは出来ないでしょう。大怪我を負ったグラスは仲間に助けられます。キャンプファイヤの側に横たわるグラスの後ろに、皮を剥かれたクマが映っています。この皮は、その後グラスが着てたものかと思われます。

 重症のグラスを伴っていては皮の引渡に遅れるので、隊長のヘンリーはグラスの息子のホークと、グラスの友人であるフィッツジェラルド、そして若いブリッジズに、グラスが死んだらちゃんと埋葬するようにと言い残して、4人を後にします。このヘンリー隊長役が、ハリポタ映画のビル・ウィーズリーしてたドーナル・グリーソン。「わたしを離さないで」、「ジャッジ・ドレッド」、「アンナ・カレニーナ」、「フランク」そして「エクス・マキナ」と、まぁ私の好きな映画に出てる、出てる。SWフォースの覚醒にも出てますよ。今までは線の細いナイーブな役が多かったけど、この映画では横顔が厳しい西部の男です。レオ様は子持ちになり、繊細な十代だったドーナル君は大人になった。

 息子は生死を彷徨う父の耳元に、私はずっと側を離れないと囁き続けます。この映画、主人公のグラスは怪我のせい(?)か掠れ声だし、とにかくみんな囁く。ちゃんと喋れ。ホークはどう見てもグラスの息子に見えないんだけど、グラスにとって息子は大事な存在。でもねー、そこが伝わってこない。ディカプリオの演技が絶賛されてるけど、肉親、息子への愛情がしみじみと感じられない。正直、自身の「ギルバート・グレイプス」の神演技や「グレード・ギャッビー」の域には至ってないと思う。

 息子を護るためにも生き延びようと頑張る父。 しかし息子死ぬ クマの恨みかもよ~
 父を置き去りにして報酬だけを手に入れようとするフィッツジェラルドと揉めた結果、殺されてしまうのです。自分が死ぬに任せられたことよりも、最愛の息子を殺されたことが、グラスを復讐に駆り立てる動機となります。ここが映画の創作部ですね。ヨタヨタで肘で這いながらも、復讐を果たすためにフィッツジェラルドを追うグラス。崖下に川を見付けた直後には川沿いに到着しておる。どうやって崖を降りたか謎。

 そこへ運悪く、こないだのドンパチ以来、娘が行方不明で、白人たち(グラスらの狩猟団)に拐われたと思ってるアリカラ族の酋長登場。川の中に隠れるグラス…って、冬の川って相当冷たいでしょうに心臓発作起こさんのかね?との心配は無用、「タイタニック」の彼と違って、氷水に浸かっても平気。しかも魚を生で食べます。超新鮮。横で火を熾してんだから、炙っても良さそうなものなのに。回虫とかいないのか、心配。

お腹すいた~って歩いてたら、バイソンを食べてるパウニー族の男に出会い、肝臓を分けてもらいます。ここんとこ、リアリティーを出すために本物の肝臓を使ったそうですが、「さすが本物の肝臓、リアルだわ!」とは思いませんでした。俺怪我してんだってパウニー語で説明したら、看病してくれました。親切な人です。翌朝、枝と毛皮で作ったぬくぬく簡易テントから出て歩いてたら、昨夜の男が、「Nous sommes tout Sauvage(我々は皆野蛮人だ)」って札をぶら下げて、木に吊られてました。犯人がフランス人だと一目瞭然。ISISなみの自己顕示欲。

 もっと歩いてたら、フランス人の狩猟隊がアリカラ族の女性を犯していたので、銃で脅して馬を奪いました。この人こそ、族長が探している娘。ついでに、彼女はそいつの男根だか睾丸だかを切っちゃいましたよ。二人で逃げてたら、崖から落ちて馬は死亡、でも生きてるグラス。アンタ、なんで生きてるの?第3弾。寒いんで、死んだ馬の内臓を抜き、代わりに自分が中に入ってぬくぬく。

 そのころ、前哨基地では、グラスの物である渦巻き模様のカンティンを持った男が現れます。グラス生きてる?と、ヘンリー隊長が救援に出た間に、フィッツジェラルドが皆の給料を持ってドロン。その追跡にはグラスも同行しますが、この辺り、時間経過が謎。救出された直後に、いきなり元気になって追跡したの?

 ご都合上、隊長は殺され、グラス対フィッツジェラルドの一騎打ちのセッティング。クマと一緒で、フィッツジェラルドを左肩に銃弾の後、ナイフで刺します。死にかけを、「Revenge is in God's hands... not mine.(復讐は神の手の中にある…私ではなく)」と言って、白人にムカついてるアリカラ族が川下に待受ける川に引きずり落とします。いやそれ、単に自分が息の根を止めなかっただけでフツーに自分で復讐実行してますやん。しかも、自分が撃つなり、刺すなりするより、エグい目に合うのが判っててやってますやん…

 グラスもまた、息絶え絶えの中、亡き妻の幻想を見ます。お迎えでしょうか?でも彼女は背を向けて去ってしまうので、グラスが生き延びたことを示唆しているのでしょうか?本物のグラスさんは、しっかり生き延びただけに。



 今年度のアカデミー賞12部門ノミネートと、大変に評価の高い作品ですが、私には向いてなかったみたい。最も、自分好みじゃなさそうと思いながら、ちょうど上映時間が都合よかったから見ただけなので自業自得なのですが。全体に暗めのすっきりしない画面や、訛りも再現(?)のせいか聞取り難い台詞があるのも合わなかった理由でしょうが、観ながら心の中でツッコミどころが多すぎて、のめり込めなかったのも原因だと思います。字幕で見たら、また違った感想になるかしら?