わっちゃんは私の亡父の幼馴染みで、同級生で、碁敵で、生涯の友だった。
あのころ70歳くらいだったろうか、わっちゃんは、千曲川の河川敷に個人的に「自然公園」を作った。さまざまな動物を飼い、花を咲かせ、木を植えた。ドラム缶にペンキで「菊根分けあとは自分の土で咲け」という句を大書して立ててあった。
大勢の子どもとその母親が遊びに来て、山羊の子に草を食べさせたり、半ば野生化したニワトリを追いかけたり、兎を抱いたり、木陰で休んだり、サツマイモを掘ったりした。
しかしここは国有地で、そのような行為は個人には許可されない。この違法「自然公園」はたびたび河川事務所から撤去を求められていた。
わっちゃんは少々変人だった、といっても多分怒らないと思う。国と争いながらこの妙な公園を何年か続けていた。公園に集まったお母さんたちは、存続を求めて署名運動なども試みたものだった。
わっちゃんが死んで何年になっただろうか。「自然公園」は跡形もないが、わっちゃんの植えた合歓の木は大きく育っている。今は地元の方々が草刈りや木の世話をしてくれているようで、今年も咲き始めた。
この夏も、きっといい日陰を作ってくれるだろう。