プロジェクト×(ペケ)
♪風の中のすばる 砂の中の銀河~ みんな何処へ行った 見送られることもなく~♪
小魔人は、一日の仕事と翌日の準備を終え帰宅の途につこうとした。塾の鍵を閉め、車に乗り込んだ。そのとき、嫌な予感がふと胸をよぎった。
ダンボールの蓋(ふた)に貼ったセロテープがはがれ、隙間ができている。
ま、まさか…。
中を覗いてみた。い、いない…。隅から隅までもう一度よく見てみた。が、跡形もなく消えていた。
悔やんだ。“もっと頑丈に、封をしていれば…”。しかし、悔やんだところで、どうなるものでもなかった。“はっ、立ち尽くしている場合ではない、行動しなければ…”と思い直し、捜索活動を開始した。
まず、車のドアをしっかりと閉め、ルームランプを点けた。何か小さな気配や物音はないかと、静かに神経を集中させた。そんな簡単に見つかるものではなかった。
額がうっすらと汗でにじんだ。暑さのせいではなく…。
携帯電話についているスポットライトで、隅々を照らした。天井、シートの下。ダッシュボードの下。本当に隅から隅まで照らした。改めて感じたことだが…、車内は、汚かった。まるでジャングルだった。コンビニの袋、カセットテープ、ポケットティッシュ、健康サンダル…。様々なものがあちこちに散乱していた。その状況が、さらに捜索を困難なものにした。
もう、あきらめて、自ら出頭するまで放っておくか…。そんな声が、脳裏にかすかに浮かび、“捜索はもはやこれまで”と観念しそうになった。
しかし、翌日の日中の炎天下で、閉じ込められた車内の灼熱地獄に小さな命が耐えられるわけがない。
こんなところで諦めるわけにはいかないのだ…。
セリヌンティウスが待っている。「走れ、小魔人!」
(いやいや、走らんでもええから、探せちゅうねん! (; ̄◇ ̄)ノ☆(ノ_ _)ノ
その後、疲労感と焦りが入り混じった懸命の捜索活動の結果…、っていうか、たまたま「ガサゴソ」とう音が聞こえたので、そちらに目をやると、コンビニ袋にからまって、もがいていた。
フゥ~!
ダンボール隙間をはい出て、どこともなく姿をくらましたものは、カブトムシ…。少し小振りで、シンボルである角も、どこか遠慮がちな控えめなものであった。
こいつは、塾生のY君が塾に来るとき、近くの駐車場で見つけて採ってきたものであった。もちろん、私のためにというわけではなかったが、なんだかんだと経緯があって、私がオーナーとなったのである。
帰宅するまでの間、とりあえず車の中で留守番していてもらおうと、小さなダンボールの中にいれて、軽く蓋をして、セロテープを貼っていたのだが、見事に脱走されてしまった。
捜索しながら、小学4年生の頃に経験した「ヤドカリ失踪事件」を思い出した。夜店の露店でGETしたヤドカリを、少しだけ水を入れた洗面器に一晩置いておいた。翌朝、「オッハヨー!」と元気よく洗面器を覗き込んだ表情は、一瞬にして凍りついた。ズガ━━(= ̄□ ̄=)━━ン!
初めて手に入れたヤドカリだったので、予想される行動範囲、隠れそうなところをくまなく探した。今回のカブトムシ以上に…。
ア・リ・エ・ナ・イ…。ヤドカリがどうやって洗面器の高い壁を越えるのか。
恐るべし、小動物たち…。決してあなどってはいけない。