さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名将棋の駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、注目の若手棋士同士による世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。同時に進行するのは昭和46年から始まる一人の少年、桂介の物語だ。長野県諏訪市に暮らす彼は幼いうちに母を亡くし、父親からは虐待を受けて育った。彼を気にかけていた元教師がその人並みならぬ将棋の才能に気づき、東京へ出てプロを目指すよう助言するが、桂介は父親の支配から逃れられない。
刑事たちと少年、それぞれの物語がやがて冒頭の天童市の場面に繋がるだが、なぜそこに繋がるのかがなかなか見えてこない。死体となって発見されたのは誰か。なぜ名駒も一緒に埋められていたのか。それらと天才棋士には、どういう関係があるのか。少しずつ事実が明らかになるが、その情報の小出し具合に惹き付けられて読まされました。読んでいてこれは松本清張の「砂の器」の別バージョンの意識が離れず、結末も意外性も感じられなかった。将棋の勝負場面は白川道の「病葉流れて」の麻雀シーンのようでもありそれなりに面白くもあったが将棋のことが解らない読者には面白さ半減カモ。桂介を助けた唐沢の思いは生かされず仇になったのか。IQの高い人間も自己の欲求には勝てなかったのか残念。
「ものを知らないことほど。怖いものはない。無知は人に恐れを抱かせるか,恐れしらずにさせるかのどちらかだ。正しい知識を持たなければ正しい判断を下せない。我々はもっと多くのことを学ばなければいけない。」(P65)2017年8月中央公論新社刊
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます