深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

ある治療のケースを見て思うこと

2013-12-06 12:22:38 | 一治療家の視点

治療家やセラピストも、ある程度の年月やってきて何となく自分のスタイルみたいなものができると、ものの見方がだんだん型にはまっていくようになる。

それがスタイルとか個性というものでもあるので、それ自体、必ずしも悪いわけではないが、それはまた別の見方、というか別の可能性を切り捨てることでもあり、見方が画一的、独善的になることとトレードオフにならざるを得ない。

そのことを頭のどこかにいつも置いていないと、とんでもないことになるかもしれない。腕がいい(と自分で思っている)治療家、セラピストなら、なおさらだ。そういう人(の一部)は、「自分は正しい考え方に基づいた正しい判断ができている。幅広い視野を持って、相手の全体像をちゃんと把握できている」と、つい思いがちだからだ。


ここに来てよく思うのだが、結局、人の意識はどこまでも不完全で、自分が意識している領域の外には意識できていない広大な領域が広がっている、と。そして、それは例えばキネシオロジーの筋反射テストを使っても把握できるものではない。

たとえ筋反射テストそのものがそれを捉えてたとしても、術者はその結果を「自分の解釈」というフィルターを通してしか取り出すことはできず、その時点で情報の大半は捨てられてしまうのだから。

どれだけ勉強を重ね、どれだけ研鑽を積んだ治療家、セラピストでも、どこまでいっても結局は真っ暗闇の中を何も見えないまま手探りで進んでいるようなものでしかないのだと思う。だから私自身のことを言えば、今でも治療するのは怖い。ただ、怖さを感じなくなったら、治療家としての自分は終わりじゃないかな、とも思うのだ。

──と、そんなことをネットで見つけた鍼灸院天空の夘野裕樹という人の書いた記事を見て、改めて感じた次第。それをアニメ『絶園のテンペスト』のOSTから「Tempest」とともに。

早速ですが、11月23日に
神農さんの大祭に行ってきました。

(中略)

その後、全日本鍼灸学会の
近畿支部学術大会に出席しました。


そこで、若手鍼灸師の先生方にも、
ぜひ、知っておいて頂きたい発表がありました。


少し長くなりますが、
内容を時系列的に紹介していきます。



ある養成学校や大学でも
教員を勤めるという鍼灸師の先生が、

ある学会の講習会で
デモ患者に実技供覧をしました。


その後、帰宅した後に、
そのデモ患者はふらつきや
手の巧緻動作障害を覚え、

念のため、脳外科に行き、MRIを施行され、
異常なしとの診断を受けました。


その際に、頸部に500円玉大の皮下溢血が見つかり、
鍼灸治療を受けた旨を主治医に伝えると、

今回の症状はそのせいと診断されました。



患者さんは治療をした鍼灸師に連絡取り、
鍼灸師が自宅まで来ました。


此の間に、患者さんは、
構音障害、めまい、頭痛、手足の協調運動障害
を起こしていました。



鍼灸師の先生は、
「西洋医学で治らないことも東洋医学で治る」

と言って、詳しく話も聞かず、
いきなり鍼灸治療を始めています。


その際に、体鍼だけでなく、吸引器を使った刺絡、
穿刺を使い金津玉液からも刺絡をしています。


患者さんは、治療後、強い眩暈を感じ、
自立歩行が不可能になりました。


それに対して、
「瞑眩だ、2時間程度、横になっているように」
と指示を出しています。



2時間後、患者さんは突然、強い嘔吐を感じ、
いきなり嘔吐し、意識が混乱しました。


ただちに、別の脳外科に行き、
MRIおよび、CTを施行したところ、
脳梗塞が認められ、

即、入院となりました。



約3ヶ月、生死をさまよった後
、何とか一命を取り留めました。
後遺症障害は、当然あります。


裁判も視野に入れて交渉が続いているようです。



発表した先生は、歯科医で
鍼灸に理解のある先生です。


その際に、


・医師でも誤診は当然ある。
 しかし、鍼灸師が病態を理解していない責任も重い。


・日本の鍼灸師は医学教育をきちんと受けていないので、
 韓国や中国の鍼灸治療をする医師と比べてレベルが低すぎる


とありました。



若手鍼灸師の先生方、いかがでしょうか?
何か感じられましたか?


この学校で教員もしているという先生は、
重大なミスを犯しています。


そして、別の大きな問題を含んでいます。



それは、この先生が、
専門学校や大学で教員をしているという点です。


教員であり、講習会で実技供覧をするという、
いわば、指導的立場にある鍼灸師でさえ、
このようなミスを犯していることです。



一般の方々は、普通の鍼灸師に対して、
どういうイメージを持つでしょうか?


ただ、私たちも、同じミスを犯す
可能性のある事例と感じたでしょうか?


講習会での実技供覧時には、
脳梗塞を判断することは不可能でしょう。


しかし、患者さんの自宅に伺った時には、
気づくべきでした。


何が、そうさせたのでしょうか?


最初の脳外科での、「MRI施行での異常なし」
という診断と考えられます。



先生方も、「病院で異常なし」
と診断されていれば、
鵜呑みした経験がありませんか?


発表された先生が、「医師にも誤診はある」
というのはこのことです。


鵜呑みせず、患者さんの症状を診たり、
よく聴いたりしていれば、

往診した時点で、気づき、
脳外科に搬送すれば事なきを得たかもしれません。



今回の事例では急速に病状が進行しており、
その時点でも手遅れだったようです。


ただ、搬送していれば
治療家としての責任は果たせ、

患者さんとしても不満は出なかったはずです。


また、ここまで病状が
悪化することもなかったはずです。



患者さんの話をしっかりと聞いていれば、
時系列的に脳イベントであり、

病状も進行していることは十分に判断でき、
前医の誤診から患者さんを守れたはずです。



当然、「医師にも誤診」はあります。

私たち鍼灸師は、医師の診断があれば
思考停止に陥りがちです。


この話を他山の石として、
危険な疾患の病態はしっかりと把握しておき、

医師の診断を鵜呑みせず、
私たちでも判断し、
患者さんの生命を守りたいものです。


2013.12.6 鍼灸院天空 夘野裕樹




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6 コメント

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コメントありがとうございます。 (sokyudo)
2013-12-10 12:38:28
>加藤弥生さん
>それからは少しでも不審な点があるときは、
病院の診察を勧めています。

そうですね。
治療院にはどんな人が来るかわからないし、よくある症状に見えても重篤なものが裏に隠れているかもしれない。
そういう意味で、自分の力を過信することのないようにしなければならないと思っています。
返信する
恐怖と緊張 (加藤 弥生)
2013-12-10 05:10:29
以前診ていた患者さんで、腰痛を訴えてきた方がいました。
接骨院勤務1年目、初診は柔道整復師の先生です。
その方は、以前も病院では湿布をくれただけで
治らなかった症状が接骨院で治ったと言って、
今回は病院に行かず、まっすぐこちらへ来院されました。
そして、2回目からは鍼灸治療を希望され、毎回私が
担当することになりました。
70代女性。受傷原因は、旦那さんが倒れたときに
一人で抱えて車椅子に乗せたことでした。
結論から言いますと、3ヶ月近く鍼灸治療をしても
症状が一進一退だったので、病院の診察を勧めたところ
圧迫骨折していて、くっつき始めていたのです。
年齢的にみて、転倒などしなくても骨折が起きて
不思議はなく、もっと早く病院で精査してもらうべきでした。
その患者さんは、その後も来院され、病院で処置された
コルセットの付け方や、薬の相談をしながら通院されました。
私がその接骨院を離れたので、その後のことは解りません。
しかし、それからは少しでも不審な点があるときは、
病院の診察を勧めています。
返信する
長くやっている割には (sokyudo)
2013-12-09 10:22:33
>ウルさん

私の場合、ヒマなせいもあって長くやってる割には臨床例も決して多くなく、だからなおさら自分の中にある「恐れ」は大切にしていきたいと思うのです。
返信する
完璧は無い (ウル)
2013-12-07 17:47:18
先生の感じた恐怖に、好感を感じます。

対人業務に再現性は無く、精度を上げる為には勉強と実践以外ないのですが、多くの人間は不勉強、かつ僅かな経験や勘、乏しい成功例で対処していますよね。









技術・知識・経験を持ってしても恐怖を感じるのですから、
返信する
情報ありがとうございます。 (sokyudo)
2013-12-07 11:43:18
>ウルさん

情報いただき、ありがとうございます。
自分のことを書くと、治療して、いい結果が出る人が続けざまに来ると、自分はもう何でも治せるんじゃないか、みたいな錯覚を覚えることがあるんですよね。
でも、こういうケースを見ると怖くなって我に返るんです。
返信する
シンクロニシティ (ウル)
2013-12-07 10:38:14
僕が愛読するブログに、同じようなケースがありましたので御参考までに

http://m.blogs.yahoo.co.jp/gdmfd345/11796348.html

返信する

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