深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

キズというキズナ

2016-06-19 15:29:11 | 趣味人的レビュー

東日本大震災の直後から広まった言葉に「絆」がある。被災した人たちを支援し、この未曾有の大惨事に立ち向かうため、皆で(被災地域との)「絆」を結ぼう──と、そんなニュアンスだったと思う。
その後、特に福島第一原発事故の詳細が明らかになるに従って、(震災よりも原発事故の)被災地、福島と他の地域との分断が表面化する中で、この「絆」という言葉に対する違和感が語られ出すようになり、徐々にではあるが復興が進むうちに「絆」という言葉もまた日常に中に消えていった。

あの頃、皆が熱に浮かされたように語っていた「絆」とは一体何だったのだろうか?──と、そんなことも今もふと思うことがある。

岡田麿里もまた、そんなことを思っていた──のかどうかは全く知らないが、2016年春期、その「絆」を中心テーマに据えた、岡田麿里の構成・脚本によるオリジナルTVアニメ『キズナイーバー』が放送されている。この記事を書いている時点で、全12話中、放送は残りあと一話だ。

舞台は、埋め立て地に作られ都心まで車で50分、かつては未来型の環境モデル都市として注目を浴びていた洲籠(すごもり)市。
以前から痛覚を感じない特異な体と異様に希薄な心を持った高校生、阿形勝平(あがた かつひら)は、暴力的ないじめの対象にされ、カツアゲを繰り返されていた。幼なじみの高城千鳥はいつも、そんな勝平を気遣うが、勝平は自分がいじめられていることにも、千鳥が気遣ってくれていることにも、何の関心も持てない。
そんな彼の元に園崎法子が現れる。言葉遣いは非常に丁寧だが勝平以上に人間らしい感情の起伏を感じさせない、その不思議な少女のことを勝平は不意にフラッシュバックする記憶の中で見たことがあるように思う。その園崎が勝平に語りかける。

「勝平君、あなたがどうして幼い頃からいわれないいじめを受けているかわかりますか?
 怖がらないから。
 みんな誰かの特別になりたいと願っています。それがプラスの感情だとしても、マイナスの感情だとしても。あなたが痛がらないから、あなたがイヤがらないから、みんなあなたの中に自分を見つけられない。だから苛立つ。
 みんな刻みつけたいんです、誰かに自分の傷跡を。みんなつながりたいんです、誰かと」

そして勝平は園崎によって、傷(キズ)の絆(キズナ)で結ばれた他人と強制的に痛みを分かち合うキズナイーバーにされてしまう。園崎によれば「他者の傷みを、苦しみを、自分のことのように考え、互いに譲り合うことができれば、争いなど起こりようがない」。それを可能にしたものがキズナシステムであり、そのキズナシステムで結ばれた者たちがキズナイーバーだという。

今回、勝平とともにキズナイーバーになった/されたのは、全員、高校で勝平と同じクラスでありながら別々のグループに属していた天河一(てんが はじめ)、由田次人(ゆた つぐひと)、牧穂乃香、新山仁子(にこ)、高城千鳥、そしてもう1人。そして彼らは園崎から「キズのキズナで結ばれた仲間と数々の難関に立ち向かっていく」として次々に奇妙なミッション(ミッション1:キズナで結ばれたメンバー全員に今まで隠していた自分の秘密を告白する、ミッション2:キズナイーバー7人目のメンバーを探し出す、…)を強要される羽目に…。

PVもあるので貼っとこう。



この『キズナイーバー』、とにかく前半はどんな話なのかサッパリわからず、ドタバタ喜劇のような内容に、「このアニメ、一体何がしたいんだ?」と途中で切ってしまう人も少なくなかったと思うが、夏合宿を経てキズナシステムで結ばれた7人が変わり始める中盤から物語のテーマがハッキリと見えてきて、俄然面白くなってくる。

キズナイーバー7人が見せる人間としての成長と合わせて、キズナシステムの真の目的とは?、園崎法子とは何者なのか?、彼女が勝平に問いかける「私の中にあなたはいます。あなたの中に私はいますか?」という言葉の意味とは?、といった作品の根幹にある謎が解けていく8~10話はまさに神回。途中で切っちゃった人、残念だったね。

さて、11話という助走(動きの少ない回だが物語自体の深化がパない)を経て、12話でどういうラストを迎えるのかが楽しみ。

この作品の構成・脚本を担当している岡田麿里は、『あの夏に見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)』や『心が叫びたがってるんだ(ここさけ)』、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』、また作品自体が大爆死した『悪魔のリドル』など、屈折した感情を抱えた人間たちが織りなす群像劇に本領を発揮する作家で、『キズナイーバー』は純粋にそのエッセンスだけで作られた、ある意味、集大成のような作品である。(岡田麿里自身がどう思っているかは分からないが)『キズナイーバー』は『エヴァ』の人類補完計画に対する岡田麿里からの回答、と言えるんじゃないだろうか。だが何より私は、『あの花』、『ここさけ』の更にその先の風景が見たいと思う。

「完全にノーマークだった、まだ一話も見てねぇ」という人、この『キズナイーバー』は(描かれる物語自体が春から秋にかけての話だということもあって)夏に見るのが一番ふさわしい。だから今からでも全然大丈夫だ(というより、本当は夏期にやるべきだったんでは?)

さて、この話の最後にこのことを付け加えなければならない。
OPに使われているのがBOOM BOOM SATELLITES(BBS)の『LAY YOUR HANDS ON ME』という曲だが、この作品を最後にBBSは活動を終えた。その理由はBBSのブログで公表されているが、それがまるで『キズナイーバー』という物語の一部とシンクロしているように見える。ゼヒ聴いていただきたい。


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2 コメント

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Σ(゚д゚;) (sokyudo)
2016-06-20 18:32:54
>ウルさん

お久しぶりです。そしてコメントありがとうございます。
全然知りませんでした。確かに文字の成り立ちからすると、そうですね。「絆」ってフワフワしたものじゃなかったんですねΣ(゚д゚;)
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絆の語源 (ウル)
2016-06-20 09:30:52
ご無沙汰しております(((^_^;)

先生は当然ご存知と思いますが、そもそも《絆》とは糸+羊、即ち家畜を縛り付けるという意味合いですね

無理に繋がれた家畜=日本人のキズナ、あながち間違っては無いかもです(笑)
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