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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

『スタッフ・ハプンズ』、そして善意の問題

2006-01-16 09:12:40 | 趣味人的レビュー
イラク戦争のことを考えると、いつでもイヤ~な気持ちになる。そのイヤ~なイラク戦争開戦までの内幕を描いた舞台が、燐光群の『スタッフ・ハプンズ』だ。このタイトルは、米国防長官ラムズフェルドが、イラク戦終結宣言のあとに起こった、武装勢力の攻撃による混乱についてコメントを求められた時に言った"Stuff happens"(ろくでもないことは起こるものだ)から取られている。

登場人物は、米大統領ジョージ・ブッシュ、副大統領ディック・チェイニー、国家安全保障担当大統領補佐官(当時)コンドリーザ・ライス、国務長官(当時)コリン・パウエル、国防長官ドナルド・ラムズフェルド、国防副長官ポール・ウォルフォヴィッツ、CIA長官ジョージ・テネット、英首相トニー・ブレア、外相ジャック・ストロー、情報局秘密情報部長官(当時)リチャード・ディアラブ、仏大統領ジャック・シラク、外相(当時)ジャック・ド=ヴィルパン、国連事務総長コフィー・アナン、国連監視検証査察委員会委員長(当時)ハンス・ブリクスたち(もちろん、本人ではない)とパレスチナ人、イラク人、マスコミ関係者、他(もちろん、役者が演じている)である。

物語は、ジョージ・ブッシュが大統領選に勝利して、ブッシュ政権が発足した頃から、9/11を経てアフガン戦争、そしてイラク戦争へと突入し、戦争は終結したものの混乱は収まる気配がなく、そもそもの大義であった大量破壊兵器も見つからなかった2004年までを描く。

だいたいブッシュ政権は、その存在自体が喜劇あるいは茶番だから、彼らの発言(公式・非公式を問わず)を書き起こしていけば、もうそれだけで面白い戯曲になってしまう。作者(英国人のデイヴィッド・ヘアー)はうまい題材を見つけてきた。しかし、なまじ本物が面白すぎるモンだから、演(や)る側は、相当覚悟してやらないと、実物のイミテーションでしかない舞台を本物以上の迫力や説得力で見せることは難しい。下手をすると、「イラク戦争早わかり劇」で終わってしまう。そして、確かにそれに近いものになってしまっていた面は否定できない。

ところで、舞台を観ていて改めてわかったことがある。私がイラク戦争のことを考えると、いつでもイヤ~な気持ちになる、その理由である。もちろん、もともとイラク戦争には、その大義や開戦に至る経緯に非常に問題が多かった(と言うか、問題しかなかった)ということもあるが、それ以上に私の心を逆撫でするのは、それが「善意の戦争」だったからだ。

悪意は恐ろしいものだと言われる。確かにそうだ。しかし、それが本当に悪意から発しているなら(そして、その行為を行う者が自分の悪意を自覚しているなら更に)、おのずからできることには限界がある、と私は思う。人は所詮、悪意だけでは生きられないからである。だが、善意ならどうか? 善意には際限がない。善意には反省がないからだ。もしそこに反省があるとしたら、「善意が足らなかった」という反省しかあり得ない。そして、善意が人を幸せにするとは限らない。

確かにイラク戦争には、ブッシュ・ジュニアのサダム・フセインに対する個人的な復讐という側面や、イラクの石油利権を巡る問題などが付随的にあるけれど、ブッシュ政権の面々はどこかで「(神に選ばれし)我々が、独裁者サダムのくびきからイラク国民を解放し、(アメリカのような)真の自由と民主主義を彼らにプレゼントするのだ」という、純粋な善意からこの戦争を始めたのではないかと私は思っている。だから、誤って無実のイラク人を何人殺してしまっても、肝心の大量破壊兵器が見つからなくても、(政治的なダメージは別として)彼らはひるまない。自分たちがやっていることが、善意から発した「良きこと」である限り、途中経過に多少の失敗があったとしても、そんなことは取るに足らないことだから。イラク戦争に「おぞましさ」を感じるならば、それは善意の持つ「おぞましさ」であるかもしれない。

だが、それは多分、ブッシュ政権の専売特許ではない。アメリカの自由、アメリカの民主主義、アメリカン・スピリッツ、アメリカン・ウェイ・オヴ・ライフがこの世における最上のものとして、それを世界に際限なく広げることが「良きこと」であり自分たちの使命である、と信じて疑わない「善意」のアメリカ人…それが世界各地に混乱をもたらし、ついには9/11テロという形で自分たちに返ってきたことを、一体どれだけのアメリカ人が理解しているのだろうか。「善意」のアメリカ人たちが。

さて、イラク戦争という喜劇/悲劇も終わってはいないのに、もう次なる喜劇/悲劇が始まろうとしている。次の舞台は北朝鮮か、イランか? 私は次回もただの観客でいることができるだろうか?

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