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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

思い出の中の『思い出のマーニー』

2014-08-02 21:55:05 | 趣味人的レビュー

去年(2013年)12月の高畑勲監督の『かぐや姫の物語』に続いて、ジブリ作品『思い出のマーニー』を見に行った。監督は宮崎駿の下で数多くの作品を手がけ、『借りぐらしのアリエッティ』では初めての監督を務めた米林宏昌(お公家顔をしているので、ジブリでは「麻呂」と呼ばれているらしい)。

私は『崖の上のポニョ』を見て以来、宮崎作品が見られなくなってしまい、その流れで『アリエッティ』も見ていないのだが、個人的には今回の『思い出のマーニー』は、これまで見たジブリ作品の中で最良の1本だと思う。


『思い出のマーニー』はイギリスの作家、ジョーン・G・ロビンソンによる児童文学作品で、ロンドンの郊外が舞台だが、今回の映画では舞台を北海道に変えている。

主人公の杏奈は学校でも上手く周囲に溶けこむことができない。そんな彼女は喘息が悪化したのを機に、夏休みの期間、転地療養のため北海道の母親の実家で暮らすことになる(実は杏奈はこの母親とは血のつながりはなく、だから「お母さん」ではなく「おばさん」と呼んでいる)。
「おばさん」の実家のすぐ近くには広大な湿原が広がり、潮の満ち引きによってその姿を変貌させる。絵を描くのが好きな杏奈は1人、スケッチブックを持ってその湿原を散策するのだが、そこで大きな屋敷を見つける。
中を覗くと、もう随分前から人は住んでいないことがわかる、その屋敷の窓に不意に明かりが灯る時、豊かなプラチナブロンドの髪の少女、マーニーが杏奈の前に現れる…。

『思い出のマーニー』は、杏奈がそんな不思議な少女、マーニーと過ごしたひと夏の物語なのだが、果たしてマーニーとは誰なのかを巡るミステリでもある。


杏奈の出会った少女、マーニーは、もちろん孤独な杏奈の想像上の友達であり、杏奈自身もそのことを十分承知している。にも関わらず、その屋敷に東京から移り住むことになった一家の娘が、2階の部屋(そこは杏奈がマーニーに連れて行ってもらった、マーニーの部屋だ)でマーニーという名前の入った日記を見つける。娘からその日記を見せてもらった杏奈は、そこに書かれていることが、自分が湿原でマーニーと一緒に体験したこと、マーニーから聞かされた話と符合していることに気づく。

そして杏奈のかすかな思い出とともに、マーニーが誰だったのかが明らかになるのだ。


私は原作を読んでいないが、映画を見る限り、この物語は活字で読んで面白い話であっても、絵として見て面白い話ではないと思う。宮崎駿が好んで取り入れた派手なアクションシーンなども皆無で、むしろ「こんな話、よくアニメにしようと思ったなー」と感心するくらい、トーンは地味で静かだ。

逆にそんな話だからこそ、これは作り手の力量が如実に現れる作品でもある。そして麻呂は丁寧な描写の積み重ねによって、平凡な日々がこんなにも驚きと輝くような瞬間に満ちていることを、鮮やかに描き出して見せた。

特に印象的なのは風と水だ。引き潮の時は歩いて行けるが満ち潮になると舟を使わなければ行くことのできないマーニーの家、風になびくマーニーの髪、嵐の日のサイロなど、水と風の織りなす表情が杏奈の心の中を映し出していく。宮崎駿の『千と千尋の神隠し』では草原を吹き渡る風のシーンに「やられ」たが、この作品では、その時以上にこの水と風に「やられ」た。

そう、『思い出のマーニー』は、宮崎駿とも高畑勲とも異なる、新たな映像作家の誕生を示す作品なのである。


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