深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

荒ぶる季節に

2019-08-27 20:04:48 | 趣味人的レビュー

2019年夏期アニメも後半戦。『彼方のアストラ』、『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿』、『VINLAND SAGA』など良作に恵まれる中、現時点で頭一つ抜けているのが『荒ぶる季節の乙女どもよ。(荒乙)』だろう。

TVアニメに限って言えば、2010年代を語る上で欠かすことのできない作品に『魔法少女まどか☆マギカ(まど☆マギ)』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)』があることは、多くのファンが一致するところだろう(好みもあるのでトップ2に置くかどうかはともかく)。奇しくも放送時期が東日本の震災と重なった『まど☆マギ』は、その黙示録的な内容が来たるべき時代の姿を暗示していた、予見に満ちた作品であるがゆえに。また、その震災の後に放送された『あの花』は、死の痛みを抱えながらも再生していく若者たちの姿を通して、震災で傷ついた人たちの心の癒やしとなった作品であるがゆえに。
もちろん『まど☆マギ』も『あの花』も震災とは全く無関係に企画、制作された作品で、放送があの時期になったのも単なる偶然に過ぎないが、そうした偶然も含めてこの2作にはそれだけのパワーがあった、ということだろう。

そしてこの『荒乙』は、『あの花』と同じ岡田麿里原作、脚本の、『あの花』と同じ青春群像劇だ(ただし監督は『あの花』の長井龍雪ではない)。舞台はとある高校の文芸部で、主人公はその文芸部に所属する5人の女子生徒。文芸部では放課後になると部室で文芸作品のエロい部分を皆で音読するので、周りから顰蹙を買っている。しかし当の文芸部員たちは、文学を通して愛や性を頭では理解していても誰も実際の恋愛経験がない。

曾根崎り香(3年):部長。頭でっかちな委員長タイプで、恋バナに興じる同級生たちを「浅ましい」と見下し、クラスでハブられている。
小野寺和紗(かずさ)(1年):引っ込み思案で自分に自信がない。幼なじみで同級生の典元(のりもと)泉とは隣同士で家族ぐるみのつき合いがあるが、泉が周りの女子にモテモテなのが気になって仕方がない。
須藤百々子(ももこ)(1年):和紗とは同じクラスの、親友でよき相談相手。文芸部ではムードメーカーにしてバランサー。
本郷ひと葉(2年):作家志望で、出版社では担当編集者がいる。その担当から「エロい小説」をリクエストされているが自身はその手の経験が何もないため、ネットでネタを集めている。
菅原新菜(にいな)(1年):色白で儚(はかな)げな美少女だが、妙に冷めたところがある。かつて所属していた「劇団そよかぜ」での出来事に今も縛られている。

ある日、文芸部で「死ぬ前にしたいこと」という質問に新菜が「セックス」と答えたことで部員の間に衝撃が走り、彼女たちの物語が動き出すのだ。

岡田麿里といえば群像劇で知られた書き手であり、上述の『あの花』の他、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『キズナイーバー』などの名作(『キズナイーバー』は“隠れた”名作か)から『迷家-マヨイガ-』のような迷作まで、数多くの作品を手がけているが、その多くが群像劇だ。そして『荒乙』はその群像劇作家、岡田麿里の最もいいところの詰まった作品になっていると思う。何しろ、「いきなり愛や性に目覚めてしまった女子高生たちのドタバタ劇」というありふれたフォーマットに、「ただの幼なじみだと思っていた相手に恋していたことに気づいてドキドキ」とか「文化祭の夜のキャンプファイアで告白」といった「この手のクサい青春恋愛物語でド定番のネタ」をぶっ込んで、それでも視聴者を見たことのないところに連れていってくれるんだから。

それを可能にしているのが、岡田麿里の言葉の力だ。大仰な「極め台詞」ではない、彼女の紡ぎ出すどこまでもリアルでナチュラルな台詞が、思春期という荒ぶる季節を生きる彼女たちのイタさを浮かび上がらせ、それが見ているこっち側の胸にも突き刺さる。この作品の最大のキモは、そういう磨き上げられた台詞の妙味にある。
台詞には絶対の自信がある、ということは制作陣も同じであるようで、普通、予告編は次回のいくつかのシーンの動画をピックアップして見せるものだが、『荒乙』の予告編は次回のいくつかのシーンのシナリオとその音声、という異例の形を採っているのだ。

さてこの『荒乙』、原作マンガはまだ完結していないようなので、どんな形で終わるのか、また第2期はあるのか(もちろん人気次第だろうが)など気になることは多々あるものの、物語はまだ後半に入ったばかり。下に荒ぶる季節を生きる/かつて生きた全ての人へ、AmebaTVが公式に公開している第1話丸ごとの動画を貼っておく。


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