『明治文学小説大全』 (全50篇)より
7月5日
『野分』 夏目漱石
明治40年(1907年)
初読。
残念ながら、漢字も仮名遣も現代表記。
主な登場人物は、白井道也、高柳、中野。
道也は大学を出てから中学の教師になったが、7年間に3か所、越後、九州地方、中国地方を経て、今は教師を辞めて文筆を生業としている。
高柳は道也の越後時代の生徒であったが、大学を卒業したばかりで職にも就けず、食うに困る状態。
中野は高柳の大学時代の友人で、裕福な家庭に育ち、生活には困らない。
貧乏ながら自らの信念に生きる道也先生は貧乏を苦にしない。それにひきかえ高柳は物事をマイナーなほうにばかり考えてしまう。
中野はそんな高柳を援助しようとするのだが…
終盤近くの道也先生の講演が面白い。この作品はこの講演が白眉。
結末はいささか竜頭蛇尾の感あり。
7月9日
『蒲團』 田山花袋
明治40年(1907年)
初読。
藤村の『破戒』と並ぶ日本の自然主義文学の代表作として文学史に位置付けられる作品。
名前だけは中学生の時に知ったけれど、読むのは初めて。
もはや現代文と云って差し支えない、完全な言文一致体。
竹中時雄はペンネームを竹中古城と云う小説家。ただし印刷工場の2階で地理書の編輯に従事することで妻と子供を養っている。
そんな時雄のもとに、弟子にしてくれと云う熱烈な手紙が若い女性から届く。名を横山芳子と云うその女性は岡山の田舎から上京して時雄に師事することになる。危ういことに芳子は神戸女学院を出たハイカラな美女、時雄は妻子持ちにもかかわらず芳子に惹かれるのだった。
その芳子に恋人ができて、時雄の心は千々に乱れる。その恋人は同志社の学生だったが、芳子の後を追って上京して来てしまう。
芳子とその恋人との間に不適切な関係が起こらぬように、芳子を自宅に引き取り監督する時雄であったが…
最後に『蒲團』と云う題名が腑に落ちる。あはれなり。
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