仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

【昔の手帳から】 6月12日 (83年:ホロヴィッツ on TV)

2011-06-12 00:25:45 | 昔の手帳から
【1980年】(1囘生)

二輪 補習
公園で野球


木曜日。

前日、卒檢に落ちたため、この日は補習。
クランクでのふらつきをなくすべく練習。

寶ヶ池公園の北側にある謎の公園で野球。
たぶんアパートの先輩・イトウさんと、同じくアパートの同期の友人・ヤマムラが一緒だつたと思ふ。
5月25日の失戀以降、イトウさんは何かと私を氣にかけてくれてゐた。
さう云へば、イトウさんが麻雀を教へてくれたのもこの頃だつた。




【1981年】(2囘生)

13:00 裁判所出頭 罰金¥8,000
E多田出席、E鴫腹缺席、體育缺席
「マンボウ夢遊郷」


金曜日。

6月1日、23kmオーバーで覆面パトにつかまり、この日の午後1時に出頭するやう簡易裁判所から呼出しを受けてゐた。
いはゆる「赤キップ」で、違反金ではなく罰金。
金額は¥8,000。
前囘の免許停止はこの年の4月で1ヵ月免停。
それから1ヵ月以上經過してゐるので、前歴はチャラ。
お蔭でこの時は免停にならずに濟んだ。
それも23kmオーバーにしてくれたお蔭だ。
きたないやりかたで捕まつたのは腹立たしいが、超過スピードをオマケしてくれたのは有難かつた。

金曜日は、英語、英語、體育實技と、充實した時間割だつたのだが、この日出席したのは1コマ目の多田だけ。
早起きして大學に行つたのだから、ついでに2コマ目の鴫原、3コマ目の體育も出席すればいいのに。

北杜夫の「マンボウ夢遊郷」を讀んだ。
北杜夫は、私が小學6年生の時、自宅にあつた「どくとるマンボウ航海記」を讀んで好きになつた作家。
つまり、私の初戀の作家である。
彼の作品はマンボウもののユーモア路線も好きだが、それよりも初期のリリカルな短篇が大好きだ。
「岩尾根にて」なんて、感傷的かもしれないが、青年期の私にとつてはたまらない魅力があつた。
この「マンボウ夢遊郷」は北杜夫が中南米を旅行した旅行記らしいが、あまり覺えてゐない。
こんなことしてゐる時間に、初期の短篇のやうな透き通つた物語を書いてくれればいいのに、などと思つた。

マンボウ夢遊郷―中南米を行く (1978年)
北 杜夫
文藝春秋


どくとるマンボウ航海記 (中公文庫)
北 杜夫
中央公論新社


岩尾根にて (1975年)
北 杜夫
青娥書房





【1983年】(4囘生)

13:00 OFF SIDE
20:30 ホロヴィッツ on TV
HにTel


日曜日。

「 OFF SIDE 」といふのは、百萬遍から上つて元田中までの中間あたりの西側にあつた喫茶店。
枚方の塾で教へてゐる講師たちを集めて、講師會といふ打ち合せをしてゐた。
それぞれ擔當してゐる曜日が違ふので、かういふ集まりを作らないと情報交換が出來ないのだ。

前日、すなはち1983年6月11日は日本のクラシック音樂界にとつて歴史に殘る日だつた。
20世紀を代表する名ピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツがつひに來日し、リサイタルを開いたのだ。
場所は東京で、チケットはS席¥50,000-。
地方の學生には、まつたく手が屆かない。
そのリサイタルの模樣をNHKがこの日、TV放送したのだ。
私はTVを持つてゐなかつたので、クラシックが好きでTVを持つてゐるカワムラの下宿にお邪魔した。
わくわくしながらTVに齧り付いたのだつたが・・・
信じられなかつた。
これがあのホロヴィッツなのか。
音が拔けたり、ミスタッチがあつたりといふレベルの問題ではない。
音が音樂として繋がつてゐないやうに感じたのだ。
特にベートーヴェンの28番(Op.101)、ただでさへまとまり難い音樂だと思つてゐたのだが、ホロヴィッツの演奏は出來の良いチャーハンのやうにパラパラしてゐて、それぞれの音に有機的結合が感じられなかつた。
ただ、この曲の一部に(私には第何小節などと説明できないのだが)、私はそれまでに感じたことのないシューマン的な香りを感じた。
この演奏以降、どのピアニストの演奏でもさう聞えるやうになつたので、これはホロヴィッツの感性が氣づかせてくれたのだらうと思ふ。
しかし、あのひどい演奏でありながら、恍惚の表情を浮べてゐたホロヴィッツ、もう惚けてしまつたのだらうと、暗澹たる氣持ちになつた。
後からの情報によると、彼はからだの(もしくは心の)調子が惡くて藥を飮んでゐたのだが、その藥の所爲だつたとのこと。
確かにこの3年後、モスクワで行なつたコンサートではいい演奏をしてゐる。
この演奏に¥50,000を拂つて聽いた人は、いつたいどんな感想をもつたのだらう。
音樂評論家の吉田秀和氏は「罅の入つた骨董品」と評したが、骨董品は罅が入つてゐてもそれが景色になつて味はひ深いこともある。
はたして、ホロヴィッツのあの演奏は味はひ深かつただらうか?








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