父は完全なる理系頭の教育者だった。子供の頃から電気機器の組み立てに興味があり、勉強そっちのけで熱中したため、父の父から叱られ、厳しく禁止されたそうだ。
「電気にはまると怖い」と、僕が電気に関心の向く事を警戒していた。しかし父の姿を間近に見ている僕が、興味を持たぬ訳が無い。
中学生の頃、わざわざ父が出張で外泊している時を見計らい、一石ダイオードラジオをハンダ付けで組み立てた。
材料は母に協力してもらって買い揃えたため、母が父にそのことを告げると、当然「見せてみろ」となる。
出来、不出来は言われなかったが、「電気はプラモデルを組み立てるのとは訳が違うんだぞ」と言われた。
後年母が父に訊いたところ、本音は僕に理系の道を継いで欲しかったらしい。
高校の時は父に勧められ、マンツーマンで父の講義を聞き、弟と共にアマチュア無線技師の資格を取った。
その講義は夕食後で、しばしば睡魔に襲われたが、父は寛大だった。
父はモールス通信も好きだった。母はその事を「トンツー」と言っていた。
僕が小学4年生頃には、父考案の語呂合わせでモールス信号を覚えさせられた。
「子供の記憶力は抜群だ」という理由で、確かにその中の幾つかは今でも覚えている。モールス信号全盛期を反映してか語順は「イロハ」だ。
「イ」 [・―] (伊東)
「ロ」 [・―・―] (路上歩行)
「ハ」 [―・・・] (ハーモニカ)
「ニ」 [―・―・] (入費増加)
「ホ」 [―・・] (報告)
「ヘ」 [・] (屁)
「ト」 [・・―・・] (特等席)
「チ」 [・・―・] (地価騰貴)
「リ」 [― ―・] (流行地)
「ヌ」 [・・・・] (塗りもの)
「ル」 [―・― ―・] (ルール修正す)
「ヲ」 [・― ― ―] (和尚焼香)
「ワ」 [―・―] (ワーと言う)
この先は覚えていない。当時もこの辺で挫折したのではないか。
語呂合わせとは言え、ごく一部を除き子供が喜んで覚える言葉では無い。母も一緒に覚えながら笑っていた…。
音楽教室でリズム聴音課題をピアノで弾く度に、この事を思い出す。
もしモールス信号では無く和声の規則を覚えていたら、今の自分はどうなっていただろう。
ところで先生の記事には音楽以外にも日常生活の出来事や科学的な理論などが書かれており大変参考になっています。
とくに論理的な思考が不得手な自分としましては少しずつ克服していかなければならない課題であると思っております。
現代音楽の観賞は自分にとってまだまだ困難ですが、科学的な知識を習得することがその糸口になるのではないかと考えております。
それでは、よろしくお願いいたします。
現代音楽もご自分の感覚で、採点しながら聴くのも一つの鑑賞の仕方でしょう。
ワインの味利きのように。