『母の待つ里』(テレビドラマ)
宮本信子、中井貴一、松嶋菜々子、佐々木蔵之介、伊武雅刀という、豪華な出演陣の名前に誘われて、NHKBSプレミアムから2週連続で放映されたこのドラマを観た。
出演者の演技にゆとりがあるので、ゆったりとした気分で楽しむことができた。 それにしても、宮本信子のバーチャルと現実を使い分ける演技は圧倒的であった。
舞台はカード会社が経営する、「老母」が暮らすバーチャルの里。 1泊50万円で、茅葺の大きな曲がり屋で宮本信子扮する「老母」と一晩を過ごす企画である。
分断と孤立化が進む現在、どこにも落ち着き先がない孤独感・喪失感に悩む人を狙った商品ということであろう。
東北地方のローカル線の鄙びた駅を降りるとバスが待っている。 これも企画のうちで、運転手に問うまでもなく行く先は決まっている。
雑貨屋の前の停留所でバスを降りると、軽トラックで通りかかった老人が、「○○さんでねえが、よーくけえってきだな。母さんも喜ぶべ。」 といって、道を教えてくれる。 村の住民は、すべてバーチャルの里の構成員である。
テレビ画面を撮影
途中から犬に案内されて、伊武雅刀扮する寺の住職に声をかけられながら進むと「老母」が出迎え、「立派になってー」と来訪者をほめたたえて迎え入れる。 そして、お互いに「母と子」を演じて過ごす。
最初の来訪者は、中井貴一演ずる東京の会社社長。 60歳を過ぎて独身。 心ならずも社長になり、部下にかしずかれるが、疎外された孤独感にさいなまれている。
2人目は、松嶋菜々子扮する独身で50歳台の女医。 認知症の母を亡くし、医師として何もできなかったことに、無力感と喪失感を覚えている。
3人目は、会社のラインから外れて定年退職した中年の男性。 退職金の折半を確認した妻に離婚され、子供からも敬遠され、孤独と無聊の中で暮らしている。
「子」たちは、「母」の演技に戸惑いながら「子」を演じ、しかしだんだんとその人間味に引き込まれてゆく。
「子」が就寝した枕辺で、「母」は小さい時にしたようにと、村に伝わる昔話をしてくれる。 (ドラマでは、この昔話が文楽人形を使って演出され、効果的であった。 )この昔話は、「子」たちの心に今はいない母を感じさせ、自身をさらけ出して「母」に接するようになる。
悩みを打ち明ける「子」に、「母」は「カード会社に叱られるかもしれないけど」といって、仮面をはずして人として対応するようになる。 そして、来訪者たちは癒され、自身をリセットし、この里を帰るところと感じ、「母」との触れ合いを求めて再訪したり延泊したりする。 バーチャルの里は実在する里に転じる。
この女性が「母」を演じてなぜそのように「子」を引き付けるのかは謎である。 しかし、一両年もしないうちに「母」が亡くなり、葬儀に訪れて顔を合わせた「子」たちの前に4人目の「子」(満島真之介)が現れ、「母」なる人の悲しい歴史と謎が解き明かされる。
原作は浅田次郎の同名小説。 さすがのストーリーテラーである。
結論はやや甘いかなと感じつつ、結構ほっこりした気分にさせられた。
ドラマで名演した犬が、「のこ」の芸名でキャストに名を連ねていたのは愉快だった。
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