オッペルと象
介護に追い回され,ゆっくり本を読む時間が取れないので,読み慣れた宮沢賢治を拾い読みしている。その中の一編『オッペルと象』について書く。
文庫本で10ページの短編である。ある牛飼いが語る噂話として書かれている。
オッペルは足踏みの稲の脱穀機を6台持っていて,近在の百姓を雇って朝から晩まで,「ノンノンノンノン」と脱穀させている。自分は琥珀のパイプを吹かして,手を背中に組んで,ぶらぶらしている。ある日そこへ白い象がやってくる。牙は象牙,皮は象皮で,それだけでもひと財産だ。オッペルは,おっかなびっくりだが,象に自分のところに滞在しないかと誘い,象は承諾する。
オッペルは与える藁を減らしながら,税金がかかるからと言って,象に次々と仕事を科していく。時計と靴をつけてあげるといって,100キロの鎖と400キロの分銅を象につけてしまう。
最初は稼ぐのを楽しんでいた象だが,とうとう5週間目に「苦しいです。サンタマリア」と十日の月に訴える。
月は憐れんで,筆と紙を持たせた童子を遣わし,森にいる象の仲間に「助けてくれ」と手紙を書かせる。
手紙を読んだ象たちは,「グララアガア,グララアガア」と怒りの声をあげながら,オッペルの脱穀小屋に押し寄せる。
百姓たちは白旗を掲げて逃散する。一人踏みとどまったオッペルはピストルを撃って抵抗するが,ものともしない象たちに踏みつぶされてしまう。
こうして白い象は助けられる。
賢治の作品には,動物を対照とした人間のあさましさを描いた作品がいくつかあるが,そうしたあさましさに天誅まで加える作品はめずらしい。
牛飼いの言葉として,擬声語を駆使しながらユーモラスな筆致で描いているとはいえ,象の死を誘導しながら,搾取できるだけ搾取しようとするような悪辣な人間は,賢治には許せなかっただろう。
秋の気配
アルゼンチンのパンパ草原に自生するパンパスグラス。8月30日阿見町にて撮影。
STOP WAR!