今日は、昨年5月の四国遍路の時に出会った男性の話です。私は単独で通し打ち(88ヶ所を1回で参拝すること)を行っていました。その日の行程を終え、宿泊先の露天風呂でゆっくりとしていたら、突然背後から人の気配がしたので振り向くと、身長180cm位の坊主頭の人がザブンと湯船に入ってきました。
見た目で人を判断してはいけないと思いますが、その人はいかにもと思える雰囲気をもった人でした。私は目を合わさないようにと、その人とは反対の景色を見ていたのですが、「すいません。お一人ですか?」と声をかけられたのです。
「はい。一人で遍路をしています。」と答えると、「いやぁ。私もそうなんですよ。」と言うのです。それからは、機関銃の如く一方的に話され、私が聞いてもいないのに遍路に来た理由を説明するのです。
「実は酒気帯び運転で検挙され、会社から出勤停止を受けて自宅で反省する日々を送っていたところ、知り合いから四国遍路を勧められ、懺悔の意味も込めて旅立ってきたんです。」との事。私は「大変ですね。でも、ただ自宅で反省しているよりは、精神的にも身体的にも良いことなんじゃないですか。」と答えました。
それから、私自身の素性は全く話していないのに、その人は「初めて会った気がしない。」と風呂から上がった後も、休憩室で色々な話をしてきました。
その人は「歩き始めてまもなく、右の足首を痛め腫れ上がって・・・。もう、痛くて痛くて・・・。」というので、「もしも酒気帯び運転で事故を起こしていたら、貴方も相手もそんな痛みなんかじゃ済まなかったのでは・・・。」とちょっと厳しく意見を言わせてもらいました。
「そうですよね。そう言われれば本当に人生が変わっていたかも知れないですよね。この痛みを忘れないように今後の生活に活かします。」となんだか人生相談のようになってしまいました。
次の朝、出発前にその人が声をかけてきました。「いやぁ。不思議なんですよ。足の痛みがすっかりとれて、清々しい気持ちなんです。今日は予定通り歩けますよ。」とニコニコ顔で言うのです。
私は「それは良かったですね。無理せず自分のペースで頑張って下さい。」と言い、宿を出発しました。
遍路で出会う人の縁とは本当に不思議です。一つの会話から一瞬にして、長年親交のある友人のような感覚にさせられることがあります。なに一つ違和感のない会話に心が弾むのです。
お遍路をするとき色々と準備が必要ですがその中に、頭に被る”菅笠(すげがさ)”というものがあります。菅笠には、「迷故三界城(迷うが故に三界は城なり)」・「悟故十方空(悟る故に十方は空なり)」・「本来無東西(本来、東西は無く)」・「何処有南北(どこぞ、南北あらんや)」と書いてあります。
三界とは、「欲の世界」:あれが欲しい・これもしたい・贅沢な生活をしたいと欲の尽きない世界。「色の世界」:性別に関係なく、若いと思っていた自分が歳を重ねる度に変わっていく姿を見て、惜しいとか悲しいとか色んな気持ちになる世界。「無色界」:自分の損も考えず、人の幸せを心配し悲しんだり、同情したりする世界。で、人間はこの三つの世界を彷徨っています。
欲に溺れ、失う若さを惜しむくせに、時が過ぎるのも自分の損も忘れて、人の幸せを祈ってしまう。そんなことを人間は一生繰り返しています。
菅笠に書かれている意味を現代風に言うと、「迷っているからこそ、自分を含め自分の周りのことが見えず、自分自身で勝手に自分の前に壁を作ってしまう。でも、その状況を悟ってしまえば、どんな世界も全てが空なのだ。思えば、初めから東も西もないんだ。それなのにどうして、南や北に人間はこだわるのだろう。」となります。
この菅笠を被って遍路旅をすることは、毎日の自分を戒めてできるだけ”無”の境地で歩くことを実践する修行の一部であると私は考えます。過去3回の遍路旅で最初の時の菅笠は大切に自宅に持ち帰り、いつでもその言葉を見ることが出来るように、自室の壁に飾っています。
香川県内にある85番札所・八栗寺は、五剣山の中腹にあります。寺に行くには八栗ケーブルを利用するのが手軽ですが、登山口駅左手の遍路道を登っても急な坂道ですが、約30分ほどで到着することが出来ます。
この八栗寺に向かう途中に、「うどん本陣 山田屋」というお店があります。八栗ケーブル口のほんの手前に位置しているので、食事時に通りかかったお遍路さんが、立ち寄ることも多いと思います。
うどんと蕎麦の違いはありますが、釧路でいうと「竹老園」のような佇まいです。庭園があり客席も沢山あって、大変混雑していますが、お店のスタッフさんの振り分けが絶妙なため待ち時間も短く、イライラすることもありません。
私は普段、うどんを食べる習慣がない(蕎麦通なものですから)のですが、せっかく讃岐地方に来たのだからと思い、この店に入ってみました。
食べたのは「ざるぶっかけうどん」というものですが、「うどん」ってこんなに美味しいものなのかと、初めて思ったほどの衝撃をうけました。皆さんにも機会があったら、是非ご賞味して頂きたいと思います。
「うどん本陣 山田屋」 http://www.yamada-ya.com/