ルート: 錫杖岳 見張り塔からずっと
日時:2024年9月27日
メンバー:H間、M野(試)、U山
昨年時間切れで敗退した ”見張り塔からずっと”。 この時は、核心部の本峰フェース取り付きに到着したのが13時を回っていて、そのまま登り続けると初めての下降路をヘッデンを点けて下ることになる可能性が高かったので安全側に倒して本峰フェース基部から右俣沢を下りました。 この時のルートの印象は、登る技術そのものはさほど難しくはないけれど、ルーファイや支点構築といった山のクライミングの基礎力を試されるルートで、錫杖の他のポピュラールートとは一味違うなというものでした(時間切れの原因もこの二点に手間取ったことにありました)。
そんな昨年の経験をもとに、今回は余裕をもって一泊二日の日程とし、初日は一ルンゼを登り、二日目に早出をして見張り塔からずっとに取り付きました。
27日は4時半に錫杖沢出会いのテントを出発。 この日も前日に引き続き大気の状態が不安定で、スマホ電波がよく入る左方カンテ取り付きで天気予報を確認したところ昼過ぎに雨マークがついてしまいました。なので、最悪、雨途中敗退になることも覚悟し、北沢大滝下で準備をして明るくなるのを待って6時過ぎにスタート。ほぼ同時に二人組パーティーが取り付きにやってきました。
1P~4Pは、昨年同様 H間さんがリード。 H間さん、昨年はルーファイに苦しんだのでその学習効果を生かします。
1P目 ラインが少々わかりづらく下部はプロテクションもイマイチなのでグレードより悪く感じます。上部に1本ハンガーボルトを打ってありますが、そこから外れても無理なく登ることができるのでちょっと混乱しました。古いハーケンのビレイ点で終了。
1P目
2P目 左上後、右に向けて大滝の落ち口へトラバースすると立って歩ける河原(?)に出ます。 H間さん、カムでビレイ点構築を試みるがよい割れ目が見当たらず、太い流木にスリングを回してビレイ。
2P目 出だし
3P目 緩傾斜の滝(水は流れていない)を登る。ビレイの入れ替えが面倒なので、フォローの二人がそのまま入れ替えで登り、上部のゴルジュ状の入り口で分散してビレイ点を構築。
3P目 ビレイ点
4P目 正規ラインはゴルジュ状のどん詰まりからと思われるが、他にもラインは取れて、そのうち一番手前側のコーナー部から取付く。 ここまでの登りの中でいつの間にかダブルロープが交差してしまったようでその交差部が途中のランニングビレイに引っ掛かってロープの流れが極端に悪くなり、H間さん悪戦苦闘。
5P目 ここでリードを昨年の記憶が残るU山に交代。緩傾斜のスラブに60mいっぱいロープを伸ばし草付き帯まで(昨年は出だしが今回より低かったのでスラブ帯の途中でビレイ点を構築)。このピッチで後続の若者パーティーに抜かれました。
草付き帯に抜けた所でアプローチシューズに履き替え、中央稜を乗り越して本峰フェースの基部まで歩いて移動。基部に10時前に到着。今回は時間的に余裕があるので頂上を目指します。気になる天気も順調に行けば降られる前に核心部は超えられそう。 先行する若者パーティーはここから隣の別ライン(凹角ルート?)を登るとのことで順番待ちすることなく本峰フェースに取り付けました。
本峰フェースへ向かう
6P目 は M野さんリード。 洞穴左の残置カムがある前傾クラックは濡れていて悪いところ。それでもM野さん、安定した登りで苦も無く抜けていきました。その先のランペを経て見栄えのする上部クラックへ。見栄えはよいクラックですが斜上方向と割れ目の向きの組合せのせいで結構登りにくかったです。クラックが終わったところからさらに左上してどん詰まりにのしっかりした木でビレイ。 フォローは雨降りに備え、カムA0を交えてのスピード最優先で登る。
6P目 出だしの前傾クラック
7P目 はU山リード。 出だしの右上クラックは埃っぽくてあまり人が手を突っ込んだ気配が感じられず、本当にここでいいのかな~と半信半疑で登ってみたら案の定カンテを回り込んだ先は安定したテラスでビレイ点がありました。どうやら6P目は後半のクラックを抜けたらそのまま直上するようです(今回のように左上するのも自然な感じがしますが・・・)。
いったん二人にテラスまで登ってきてもらって仕切り直し。 クラック交じりの凹角を上がり(ここにも残置カム 1個)クラック幅が狭まり始めるところから右方向へ核心部のトラバースに突入。足元がすっぱり切れ落ちてたプアプロテクションのトラバースを終え、トポでは左上となっている辺りから上を目指すもののラインを勘違いしてほぼ直上してしまいました。 左の方にビレイ点があることに気付いた時は既に正しいラインに戻れなくなっていてそのまま強引に上部スラブへ這い上がる。スラブも良いビレイポイントが見つからずそのまま60mロープほぼいっぱい伸ばしたところでようやくビレイ点にできそうなブッシュに到着。 周りの状況からみて、どうやら7、8Pをリンクして登ってしまったようですっかり満腹! そしてなによりもこの大胆なラインを見出した初登者のセンスと勇気に感服!
7P目 核心のトラバース
上部スラブ
9~11P目 は再びM野さんにバトンタッチ。
9p目は頂上岩壁の基部をほぼ歩いてトラバース。 10P目は傾斜の強い草付き。時たま残置ハーケンを目にする。 11P目は草付きから頂上岩壁。
頂上岩壁は複数のクラックラインが入っていてそのうちの一本がラインになっているようですが、たまにクラックを間違えてかなり難しいクライミングになるパーティーもいるらしい。
そして、我々もそうなりました。 M野さんが ”かなり難しかった” というぐらいだから相当難しかったのだと思います・・・。 ”思います”としか言えないのは、私はこのピッチはパスさせてもらったからです。”終了点から稜線の踏み跡まで懸垂じゃないと下れない” ということだったので、時間節約のために カムの回収をH間さんにお任せし、自分はクラックを登らずに頂上岩壁の端の簡単な凹角から稜線まで上がって一足先に終了とさせてもらいました。 ちなみに過去の記録を見ると終了点から歩いて稜線の踏み跡に下ったというものが多いことから、我々は最後はラインを外してしまったようですが、多分正規のラインはすぐ近くにあると思われるのでまあ良しとしましょう。
頂上岩壁
そして14:00過ぎにH間さんが終了点に登り上がって無事終了。幸いにして心配していた雨には一滴も降られることなく良い方に天気予報が外れてくれて何よりでした。
終了点
その後、懸垂で下ってきた二人と合流し、明瞭な踏み跡を南下すること10分?ぐらいで 錫杖岳の頂上プレートとピッケルが立つピークに到着。下山後調べたところによるとこのピークは地理院地図の三角点があるピークではなく、頂上ピーク群(?)の中の一つのピークというのが正確なところのようです。なんでも三角点があるピークへはヤブ漕ぎが大変らしく、このピークに立てば錫杖岳に登頂とみなされているようです。
頂上
なぜかやたらジャンダルムがくっきり見えた(写真は前日のもの)
頂上からの下降路もしっかりとした ”道” で基本的に足を前に出すだけで下って行けるのですが、稜線から沢筋に立つまでの区間には迷い込みやすいニセトレースが何か所かあり、H間さんが持ってきてくれた過去パーティーのGPSログに何度か助けられました。また、いつものことながら沢筋に降り立ってからも出合までは長いですよね。こんなことを考えると昨年は本峰フェース基部から下って正解だったのだと思います。 今回も錫杖沢出会いに戻った時には暗くなりかけていてそれからテント撤収、パッキング、下山 とすっかり遅くなってしまいました。
ようやく沢筋に降り立ったがこの先が長い
でも、振り返ってみると純粋なクライミングにとどまらない、山の岩場ならではのいろいろな要素がたくさん詰まったクライミングを堪能できたように思います(世間一般ではこれをアルパインクライミングと呼ぶことも多いと思いますが、この時期氷雪は無くそれは正確ではないでここではあえてそう呼びません)。
錫杖の他のポピュラールート(左方カンテ、1ルンゼ、注文・・・ 等)のルートグレードが4級下なのに対して、見張り塔が4級にグレーディングされているのも納得できます。
山のクライミングルートとしてお薦めの一本です。
錫杖沢出合 4:30 ~ 取付き 5:30- 6:00 ~ 本峰フェース基部 9:50 ~ 終了点 14:10 ~ 錫杖岳頂上 15:10 ~ 錫杖沢出合 17:30
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