諏訪山岳会公式ブログ

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日向八丁尾根から甲斐駒へ

2017年01月04日 | 雪山
コース:日向山~日向八丁尾根~甲斐駒ケ岳~黒戸尾根
日時:12月24日~26日
メンバー:U山 単独
 
日向八丁尾根から甲斐駒に行ってきました。
鞍掛山分岐から甲斐駒まで他に誰もいない一人だけの雪山でした。


<六合目付近からの甲斐駒>

日向八丁尾根は数年前に再整備が完了し多くの登山者を迎えているようだ。
私がこの尾根を知ったのは20年ぐらい前のこと、松濤明の「風雪のビバーク」に掲載されている
「甲斐駒-大岩山の環走」という紀行文を読んでのことだった。
ちょうどそれを読む前に、たまたま地図でその尾根筋を目にして気になっていたこともあり
それ以来、甲斐駒を廻る興味深いコースとして記憶にインプットされることになった。

 <甲斐駒-大岩山の環走>

松濤明がこの尾根をたどったのは昭和15年の2月で、この当時は登山道が整備されていたようだ。ネットで調べてみると昭和40年代の登山地図には破線(=難路)が記載されているものがあるらしい。
 
そんな日向八丁尾根が再整備されたと耳にし、”それならいつでも行ける”と安心してほったらかしのままだったのだが、この夏、F倉さんがこの尾根を下ってきて、とてもよく整備されていたと言う。身近な人からそう聞かされると、前から興味を持っていた身として、早めに歩いておかなきゃという気になったが、あいにくこの秋はスケジュールが立て込んでいて、計画は来シーズン以降に持ち越しとなった。
 
さて、この年末はクリスマスの連休に休みを付けて槍に行こうとパッキングまで済ませたのだが
荒天で早々に中止を余儀なくされた。が、まとまった日数が余っていてもったいないので、どこかに転進しようといろいろ考えていたらふと日向八丁尾根が思い浮かんだ。
日向八丁だと日程の都合で単独にならざるを得ないことや、冬の情報があまり入手できなかったことが不安材料として残ったが、”ダメなら帰ってくればいい”と見切り発車することにして早速、会に計画書を提出。承認をもらって思いもよらぬ形であったが長年温めていた山行が実現する運びになった。
 
12月24日 晴れ
 
4:30に竹宇駒ヶ岳神社駐車場を出発。1200m付近から雪を踏むようになる。
日向山 7:40着。日向山の頂上は写真でよく見る白ザレのところだとばかり思っていたら、それは単なる思い込みで三角点は樹林の中にあった。
天気は上々だが、上空に寒気が残っているらしく、駒も八ヶ岳も稜線は雲の中である。

   <甲斐駒と八ヶ岳>

鞍掛山分岐で二人パーティーが追いついてきたので期待を込めて”上までですか?”と聞いたら鞍掛山ピストンとのことでがっかり。結局この先甲斐駒ピークまで一人ぼっちの山を満喫することになった。
地図上の登山道終点(大岩山手前のピークあたり)を超えたら急に目印が少なくなったがルートファインディングに支障は無い。同時に雪が増えてくるぶし程度までになってきたのでそれまで抱えていた水づくりの心配がやわらいだ(うっかり水を忘れたのでした)。
 
大岩山に12:30着。いよいよ大岩山の大下降が始まる。

 <大岩山標識>

登山道の先に目をやると、少し先のところから大岩山の山体が急に落ち込んで見えなくなり、その先に広がる空間の目に見えない下の方から日向八丁尾根が烏帽子岳に向け続いていて、まるで断崖絶壁を一度谷底におりてそこから全く別の尾根に取りつくような錯覚を覚える。
さらに、日向八丁尾根終点の三ツ頭や、そこで交差する主稜線の終点にそびえる駒がはるか遠くにみえること・・・。
この光景を見て、ここまで来た勢いだけでそのまま前進を続けることがためらわれ、大休止を取ってしばし計画を再考。最終的には、大岩山を下ってもまだ余裕をもって引き返せる圏内にいることを自分に言い聞かせて前進を決定。念のため、ハーネスと数組のビナ、スリングを身に着け大下降に踏み出す。

ピークの先からやせたリッジをしばらく下ると、鎖が現れ、そこから右へ左へと弱点を縫うようにしてワイヤー、固定ロープ、鉄梯子そしてまた鎖が連続し、気を抜けない下りが続く。念のため、鎖やワイヤーにビナ掛をしてバックアップをとったが、末端がフリーになっていて単なる気休めにすぎなかったセクションもけっこうあった。そんな下りを続けること小1時間、約150m標高を下げたところでコルに到着。それにしても長く急な下降で、整備を手掛けた方の多大な労力と金銭的負担がひしひしと伝わってくるのだった。

 <大岩山の梯子、鎖>

ちなみに、過去の記録を見ると、まだ再整備がなされていない2000年代後半の冬の記録では、懸垂の連続でコルまで2時間かかったというものがあった。また、逆コースを辿った松濤明は大岩山をダイレクトに登ろうとして撃退され、やむなくまわりこもうと沢を下ったら指道標が見つかって救われたとあり、その当時の登山道は大岩山を廻り込んでいたようだ。
 
コルから先をだらだらと登り返し、大岩山の下りで一気に失った高度をほぼ回復して2301ピーク手前で幕を張る。ここは、人力ではそう簡単には来れない場所だが長坂の街明かりが見えるので電波状況は良好。大事を取って会に今宵の泊まり場を連絡し、アルコールをチビチビやりながら夕餉の支度にとりかかる。
 
駐車場 4:30 ~ 矢立石登山口 5:40 ~日向山 7:40 ~ 鞍掛山分岐 10:15 ~ 大岩山 12:30-13:00 ~ コル 14:00 ~ 2301mピーク手前 15:00
 
 
12月25日 晴れ
 
今日は標高が上がるのでラッセルは必至だが、昨日の雪の量を考えると十分に勝算はあると踏んで前進を決定。
 
2301mピークを越えたところで、膝上までもぐるようになってきたのでワカンを装着。雪のせいで夏道の目印を見失い、切り開きから外れてブッシュと格闘する時間が多くなってきた。2400mからの急登を超えると、雪深い樹林帯に入って一気にスピードが落ちる。雪の絶対量はさほどでもないのだが、3日前の雨のせいかモナカ雪が続き、踏み抜くたびに肉体的にも精神的にもダメージが蓄積する。

  <烏帽子岳の登り>

そんな登りに耐えること約4時間、12時半をまわったところでようやく烏帽子岳着。烏帽子岳付近で短時間ラッセルから解放されるが、その先の登り返しで再びラッセルになり三ツ頭に13時25分着。


<烏帽子岳から日向八丁尾根を振り返る>

昨晩、最も時間がかかるケースとして三ツ頭着13時を想定していたがそれをオーバーしてしまった。おまけに、目の前の鋸~甲斐駒の稜線には、想定(期待)していたトレースは無し。大幅な計画修正はやむを得ないが、いまさら引き返すわけにはいかないのでとにかく駒に向けて前進を再開する。
 
 
 <三つ頭分岐 期待していたトレースは無い>
 
登山道は最初は長谷側の疎林に沿っていたので雪も少なくこれならに遅れを取り戻せるかもと期待をしたのだが、六合目石室が近づくにつれて雪深い北面をトラバースする区間が多くなり、淡い期待も消し飛んだ。
と同時に六合目石室泊が今晩の有力な選択肢として浮上。六合目石室は20年ほど前の冬に前を通過してちらっと見ただけでほとんど記憶にないのだが、最近リニューアルされて快適らしく、そこを今夜のねぐらにするのも悪くないだろう。


<六合目付近からの甲斐駒>

六合目石室に15:00着。入口の扉を開けようとしたら下1/3ぐらいが雪で埋まっていてその重さのせいでピクリとも動かない。除雪すればいいのだろうが、結構な量で時間もかかりそうだ。ならば、外にテントを張るという選択肢もあるのだが、ここに泊まるのは(時間切れというのが第一だが)あくまでも石室の魅力があったればこそなので、それが無いとなれば 前進→七丈小屋の可能性にも惹かれる・・・。
昨冬は黄蓮谷からの帰路、黒戸尾根を9合目あたりからヘッデンを点けて下っていて夜の様子は大体わかっている。なので、今回も明るいうちにピーク近くまで行ければ同じようなパターンで快適な七丈小屋でビールにありつけるはずと踏んで行動を再開することにした。
 
森林限界を超え、斜光に浮かぶ大展望の中をピークに向けて高度を上げる。あとは、日没との競争。クラストした雪面はスピードが上がるが、うっかり変なところに踏み込むと、たちまちモナカ雪地獄に落ち込んでスピードが落ちる。

 
<左 日向山、大岩山と八ヶ岳 右 日向八丁尾根と鋸岳>

 
<左 仙丈の日没 右 甲斐駒と北岳>

下から見てほぼ最後と思われる斜面に踏み込んだところで日没となり、その後はヘッデンの照らし出す狭い空間を勘を頼りに登っていく。
しばらく行ったところで岩稜が出てきて行く手をふさぐ。唯一のルートは山梨側斜面のトラバースだと思われたのだが、そこがかなり急に黄蓮谷に落ち込んでいて自信をもって踏み出せない。
 
そこで行動を打ち切り、今夜のねぐら探しを始める。ほどなくして、長谷側に前後を岩に挟まれたスペースを発見。ここならへまっても下まで行ってしまうことは無いだろう。最初は岩にロープを渡してツエルトを張ったが、居住性が悪く気が進まないので風が弱いのを幸いにテントを立てる。狭い傾いた斜面なので、中に入ると底の半分ぐらいが浮いている状態だが、一晩を過ごすのに申し分は無い。念のため岩に固定したロープをポールに結び付け、さらに吹き流しから中に入れてセルフビレイをとって一応安全を確保。不自由な態勢で火をおこし、暖かい飲み物を口にすればいつしか3000m近い頂稜にいることを忘れ、いつものテント生活の時間が流れ始めていた。
 
出発 7:15 ~ 烏帽子岳登りはじめ 8:20 ~ 烏帽子岳 12:45 ~ 三つ頭 13:25 ~ 六合石室 15:00 ~ テン場 17:30
 
 
12月26日 曇り 時々晴れ
 
3時ごろにテントがやたらに風であおられて目を覚ます。念のためいつでも脱出できるようにと登山靴を履き朝食の準備に取り掛かる。今回のテントは”居住性の良いツエルト”という位置づけで持ってきた夏テントなので、ポールが細くちょっとした風でも強風が吹いているようにあおられるのはやむを得ないところ。
空が白み始めたところでパッキングを済ませ、風の息を見計らって表に飛び出し、即座にポールを抜いてテントが飛ばされる前に撤収を完了。
 
空模様は高曇りで行動には申し分なし。長谷側から山梨側に移り登高再開。昨晩中止した岩稜のトラバースは確かに急傾斜だが明るい時間に見れば思ったほどのこともない。そこを超え、岩混じりの雪面を登ること約30分で頂上着(7:15)。頂上にはすでに北沢峠からピストンで来た学生グループがいて記念写真を撮ってもらった。

 <甲斐駒ピークにて>

頂上から来し方を振り返れば、はるか下の白ザレの日向山から始まる尾根が大岩山に至り、そこで直角に向きを変えて日向八丁尾根に入り、その終点の三つ頭で鋸からの主稜線に乗り換え頂上へ、そしてこれから下る黒戸尾根へと、尾白川をぐるりと囲む今回のコースが一望のもと。
それにしてもこのコース、単に甲斐駒に登るあるいは下るにはえらく遠回りで、地図から消えた時代があったこともむべなることと思われたが、その一方で、尾白川源頭をきれいに一周するという点で、甲斐駒という山をより深く味わうことができる大変魅力的なコースであるとも思った。いずれにしても、再整備をした方の途方もない労力と情熱に敬意を示すとともに、その再整備のタイミングに居合わせて、ひょんなことから冬に一人というちょっとかわったスタイルでそれを辿れた幸運を思った。
 
黒戸尾根の下りは、重荷に苦労しながらも刃渡りの下あたりまでは順調に下ったのだが、そこで緊張の糸が切れたせいか落ち葉の下の浮石を踏んで大転倒。ザックを背負ったまま仰向けになってカメが甲羅を背にひっくり返った状態に陥り、起き上がるのにかなり苦労してすっかり閉口してしまった。その先は、転ばぬ先の杖でカメの歩みとなり駐車場着 16:00。下山だけで丸一日を費やすという、かっこ悪いフィナーレとなってしまった。
 
出発 6:45 ~ 甲斐駒 7:15 ~ 七丈小屋 9:15 ~ 駐車場 16:00
 
 
今回は、雪が少なかったので単独でも2泊3日で下山できたが、通常の雪の量であれば、数名のパーティーで2泊3日というのが標準的だろう。そういう意味でも、とてもラッキーな山行だった。


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