母が子供時代には、天皇は現人神(あらひとがみ)であり、「昭和天皇=神」と教育を受けていた。
母の話によると、学校の教室には昭和天皇の写真を収められた場所があったらしく、写真は「御真影」と呼ばれ、一日に一度披露されたらしい。
写真が披露されるや否や、拝礼を強要されるので、一度もその写真を見たことは無かったと言っていた。
母にとっては、天皇家の人々は正に天上の人々であった。
戦後、昭和天皇の人間宣言で、天皇家は天上から地上に降りてきたが、平民とは異なる皇族であることに変わりはなかった。
母は高貴な人々の生活に興味津々だった。そのきっかけになったのは、「世紀のご成婚」明仁親王の結婚であった事は間違いない。
テニスコートで、当時皇太子であった明仁親王に見初められた美智子様は、大企業日清製粉のお嬢様だった。
テニスはその頃まだ一般の人々が気軽に始められるようなスポーツでは無かった。だからこそ余計に世間の人にとっては憧れの優雅なスポーツだったのだろう。
テニスウェアを着て、テニスコートでのロマンス、お相手は高貴な方。
夢の様なラブストーリーに、当時の乙女たちがみな心をときめかせたであろう事は、想像に難くない。
皇室の慣例を破る程の大恋愛、初の平民出身の皇太子妃の誕生は、マスメディアも大きく取り上げ、ご成婚の馬車でのパレードは、テレビで実況生中継された。
そのパレードの生中継のおかげで、テレビの普及率が大幅に伸びたという。
過去のニュース映像でパレードを見たことがあるが、美智子様も若く美しかった。
そこに至るまでのストーリーと馬車によるパレードが、まるでおとぎ話のお姫様の様な風情だった。
ミッチー・ブームとして社会現象となったのもむべなるかな。
その後も、ワイドショーはこぞって天皇家の話題を取り上げ、紀子様、雅子様それぞれのご結婚、ご出産、子供達の成長と話題に事欠くことなく、長期に渡り放送し続けている。
私が中学生の頃から、母はワイドショーから仕入れた天皇家のネタを良く話してくれたが、私は皇族の話題に興味は無かった。
しかし、興味のある無しに関わらず、ニュースで流される天皇家の話題は、知らず知らずのうちに、耳目がとらえてゆく。人並みに、天皇家の出来事はなんとなく把握している。
最近話題の秋篠宮文仁親王の長女眞子様と小室圭さんの2017年の婚約内定の会見や結婚の行方についても、テレビを眺めていて知っていた。
繰り返し伝えられているのは、なかなか結婚に至らない原因は、どうやら小室さんの母親の金銭問題が関係しているらしいということ。
他人事ながら、「もし私が小室さんの母親だったら、息子の結婚の為に借金してでも自分の問題をサッサと解決するのになあ」とか。
来月で二人とも30歳になると、ニュースで聞き、「小室さん4年も眞子様を待たしてるのかー」とか、「まだ、就職もしてないのかー」とか、本来私にはなんの関係もない事だが、私も年頃の子供を持つ母親として色々と考えてしまう。
眞子様の結婚について、父親である秋篠宮文仁親王は、難しい決断を迫られた形だが、二人の意志を尊重し、結婚を承諾しているようだ。
私はその心中を察し、眞子様の結婚について、「祝福される結婚なら良かったのにね」と思わず誰に言うでもなくテレビを見ながら声に出した。
その瞬間、自分が放った言葉に、自分自身が胸を突かれた。
それは、自分の父親の胸中をリアルに悟った瞬間だった。
しかし、今となっては40年以上も前の出来事だ。子供達が巣立ったあとも、こうして仲良くやっている。
終わり良ければすべて良し。
天上の人となった父も、赦してくれていると信じている。
前途多難な件の彼ら。私から見れば、イバラの道のようにも見えるけれど、結婚の行く末が気にかかる。
結局私も、母と同じく皇室ウォッチャーになりつつあるようだ。