ああ、長男と同じだ。
長男の頭の形は、産まれた時後頭部が秀でていて、それは美しい形だった。
母親の私がこんなに絶壁なのに、夫も更に私よりも顕著な絶壁なのに、なぜこのように美しい曲線なのかと感動した。
しかし、その美しい曲線も瞬く間に消失してしまった。
初めての子育ては知らないことがいっぱいだ。赤ちゃんの骨が柔らかいのは知っていたけれど、こんな結末になるとは予測できなかった。
ベビーベッドはベランダの日差しがよく入る明るい場所、直射日光の当たらない壁際に設置していた。
私が台所に立ち、左側を見ると、息子がよく見える位置。ベビーベッドにいる息子からも、私が良く見える位置だ。
アパートの狭い部屋だったので、私がその部屋にいる限り、息子は私をどこまでも目で追える。でも、それが逆にいけなかった。
その頃に流行ったドーナツ枕。効果があると信じていたのだが、息子の頭の重さで、あっという間にペッタンコ。ドーナツ枕の意味をなさなくなった。
息子は、いつも左側をむいて私を目で追っていた。もっとあちこち動いていたら、そんなに偏った形にならなかったのだが、おとなしくあまり動かない子だったので、左側の後頭部が見事に変形してしまった。頭頂部から息子の頭を眺めると、後頭部の左下部分をスパッと切り取ったかのような形。
それに気づいた時は、本当にショックだった。
内容物の脳が潰れやしないかと、変形ぶりにビックリするやら、心配になるやら、どうしたら良いかわからずあわてた。
結局それを直そうと、ベビーベッドの枕の位置を正反対にした。これまでとは逆に頭の右側が下になるように。
息子は向ける顔の位置が逆になったことで、癖のついた頭を反対側に向けるのに難儀していた。私の方を向きたいのに、頭の変形が邪魔して向けない。頭が“欠けた”部分の下にタオルを入れたりして、工夫した。
結局、成長とともに若干は目立たなくなったものの、後頭部の右左のバランスは戻らなかった。髪の毛がその形をカバーしているので、誰にも分からない。禿げない限り、一生誰にも分からないはずだ。“終わり良ければすべて良し”と。
ちなみに娘は、現在の住まいに引っ越してから産まれた。
居間のとなりの和室に布団を敷いて寝かせていた。
北枕になってはいけないと、南側に頭を向けていたのだが、ちょうど居間の方向に頭頂部を向けている状態で、家族のみんなが何をしているか全く見えない。それを見ようとして、右に左にと頭を動かすので、それが良かったのか、惚れ惚れとするような美しい曲線の後頭部のままだ。
時々触っては、その曲線を楽しむ、フェチな母である。
私が子育てをしていた頃は、“うつぶせ寝”を進められたりしていた。そうすると、仰向けに寝かせておくより頭の形が悪くならないと。欧米ではそれが一般的だから、後頭部が美しいのだと。
でも、それから間もなく「乳幼児突然死症候群」の発症が、うつぶせ寝にした時の方が発症頻度が高いという話も聞いた。現在は、うつぶせ寝は推奨されていない様だ。日本人には古来からなされていた“仰向け寝”の方が良いのだろう。
そう言えば、長男はベッドに転がしたままが多かったけれど、二番目に産まれた娘は、息子の幼稚園の送り迎えだったりお出かけが多く、その都度抱いたりおんぶしたりで寝かせっぱなしにしておくことが、息子よりかなり少なかったはずだ。もしかしたら、それで頭の形が良いのかもしれない。これを書いていて、初めて気づいた。
息子には悪い事したな。もっと抱っこしてあげればよかった。