数十センチほど積まれたもみ殻。ぶっすりと突き刺さった煙突から、白煙がゆらゆらと立ち昇る。農作業の手伝いに訪れたご近所さんの田の隅で、そんな光景を目にした。「地元に伝わる儀式か?チベット仏教か何かか」と思ったが、違った。「こりゃ女房が炭を作りよるんよ」。恰幅のいいご主人が言う。もみ殻をいぶして作る燻炭(くんたん)というらしい。
「炭ですか。BBQに使うんですか」。炭といえばキャンプのBBQしか知らない隊員がアホ面で尋ねると、「燃料にゃならんよ。肥料いうか、土を良くするんよ」とご主人。畑にまくと、作物が育ちやすくなるそうだ。
調べてみると、もみ殻燻炭はアルカリ性なので、やせた酸性の畑に堆肥などと一緒にまくと、pHが調整される。微生物が棲みやすくなり、作物が根を張りやすくなるなどするという。土壌の改良剤。ホームセンターなどでも売っているが、こちらは何でも手作りだ。
作る仕組みは簡単。もみ殻の山の真ん中に、煙突のついたアルミ缶のような箱を置く。箱に藁を詰めて着火。もみ殻をかぶせていぶし焼く。いぶされた箱の周りのもみ殻をかき混ぜながら、量によっては1日以上かかるらしい。げ、大変だ。
もみ殻の山を後にして、「ウンカが出とる」という田んぼの稲を鎌で刈った。雨で稲穂が倒れ、根元が腐り始めている。茎や土の上を白い小さな羽虫が飛び回る。ウンカ被害なんて教科書でしか見たことなかった。「へえ、これがウンカですか」。ひとり感心しながら鎌をふるう。稲の一部はもう使い物にならないという。
そんなキビシー状況だが、秋空の下の作業は気持ちいい。遠くに見える燻炭の山は、マイペースで白煙を上げる。田んぼがタバコを吸ってるみたいだな―。雑事を忘れてしばらく、ひたすらカマキリ男となった。
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