福富ストラット

「記者ときどき農夫」。広島の山里で子ども向け体験農園づくりにいそしむ、アラフォー新聞記者のブログ。

しのぐ力

2019-09-04 08:57:23 | 日記
 フリースクールや児童発達支援などの事業所を運営する広島県内のNPO法人を訪ねた。隊員が構想する「子ども農園」づくりのアドバイスをもらいたかったのだ。前日の急なアポ入れにもかかわらず、理事長さんが放課後の時間を割いてくれた。
 不登校や引きこもり、発達に課題のある子どもたちが野菜づくりを楽しめる農園がつくりたい。農作業と住民との交流を通じて成長をサポートできる場にしたい。療育などの専門機関ではなく、気軽に立ち寄れる「居場所づくり」なんですっ―。
素人の隊員の「思い」任せの説明に、じっと耳を傾けてくれる理事長の男性。聞き終えると、助言や体験談を語ってくれた。
 子どもの成長の特性、それを踏まえて大人ができること、これまで接してきた子どもたちのエピソードなどなど。どれも経験の裏打ちがあり、勉強になった。共通の知り合いの小児科医もいたことで勝手に親近感を覚え、途中からは隊員の愚息たちの子育ての悩み話に。図々しくてすみません。「子どもは少しずつ成長してるのに、大人は待つことができないよね」。分かっちゃいるけど、難しい。


 小一時間ほどの話で理事長の口からしばしば出てきた言葉が「しのぐ力」。ゲームで負けるといつも泣きわめく子どもがいるとする。その感情を否定せず受け止めた上で、「またやってみようね」と寄り添う。負けを繰り返すうちに、ゲームなんて5回やれば1回ぐらいは勝つことを知り、負けをしのげるようになる。しんどいとき、たった1人でいいから愚痴を言い合える友人と出会う。一緒にしのぎ合う経験を経て、やがて数人の仲間との小さな「居場所」ができる。少しずつ芽生える安心感が、「自分って、生きていける」との自信につながる。
 しのぐ力か。希代の雀士であり作家だった色川武大も言ってたな。長い長い麻雀の戦いでは、しのぐ力、しのぐ時間が大事だと。攻めもせず守りもしない、睨み合って一線を維持している時間。相撲に例えて、「人生15勝全勝を狙うと無理がある。8勝7敗じゃ寂しいから、9勝6敗を目指せ」と。

 理事長自身、発達障害に起因する人とのコミュニケーションの壁に悩んだ経験があるそうだ。「いまも人に自分の考え伝えるのが苦手で、何言ってるのか分からなくなるんです」。ちょっと自信なさそうに苦笑する表情が、むしろ信頼できる。
 この事業所と農園予定地は車で40分ほど離れている。「子どもが自分の手で作物を育てるって、うらやましいぐらい、いい経験。地元から離れて知り合いの目がない場所の方が、子どもにとっては楽なこともあるんですよ」。理事長の言葉に励まされる。まだ青写真段階の「子ども農園」に関心を持ってくれ、現地視察にも来たいと言ってくれた。思いを共有できる人との出会いは何よりうれしい。


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