先日の休みに映画を観た。
アンドリュー・ガーフィールド主演の歴史ドラマ、"沈黙 -サイレンス-"だ。
原題は"Silence"。
原作は遠藤周作の歴史小説、"沈黙"。
巨匠、マーティン・スコセッシが原作を読んで感銘を受け、
映画化を構想してから28年もの歳月をかけ制作された大作。
キャッチコピーは、"なぜ弱きわれらが苦しむのか―"。
江戸時代初期、幕府の禁教令により、
キリスト教を布教する宣教師たちは国外追放となり、
信徒たちも強制的に棄教させられた。
棄教を拒む者は容赦なく罰せられ、酷い拷問を科せられ、最後には処刑された。
日本史で習い、誰もが知っている、江戸時代のキリシタン弾圧。
島原の乱ののち、弾圧はいっそう厳しさを増していき、
それでもなお、隠れて信仰する者は、"隠れキリシタン"と呼ばれ、
発見されると見せしめのように拷問にかけられ、棄教を迫られた。
棄教を拒む者は容赦なく処刑されていった。
そんなキリシタン弾圧下の長崎において、
過酷な運命をたどる、ひとりのポルトガル人司祭の生涯を画いた、
遠藤周作の歴史小説、"沈黙"。
この原作を読んだこともなく、当初さして興味を抱かなかった。
だが、予告編を観ると、なにやら凄まじそうで俄然興味が沸く。
アメリカ映画だが、ほとんどが日本人キャスト。
小説が原作ではあるが、キリシタン弾圧をリアルに描いた作品のよう。
日本人として、これは観ておくべき映画かもしれない。
そう思い、鑑賞に臨んだ。
1640年,日本は江戸時代初期。
長崎で布教活動をしていたイエズス会の高名な宣教師、
フェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕えられ、棄教したという。
その報を聞いた、フェレイラの二人の弟子、
ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、
師が棄教したということを信じられず、その真相を確かめるため、
また師を救いだすため、ポルトガルから日本へと旅立つ。
マカオに居た日本人のキチジロー(窪塚洋介)と会い、
長崎への案内役として同行してもらう。
鎖国中の日本。
外国人は入国が厳しく制限されていた。
オランダ船のみ、長崎の出島への入港が許可されている状態。
ポルトガル人で且つキリスト教司祭である二人は、見つかれば命はない。
霧深い闇夜、さびれた海岸へと到着する。
そこは隠れキリシタンたちが、信仰のみならず、
生活までも隠しているような貧しい村だった。
司祭たちは捕まってしまい、キリシタン達もことごとく捕まってしまい、
村には司祭がおらず、残された信徒たちは、
闇夜に長老の家でひっそりと祈りを捧げていた。
ロドリゴとガルペは大歓迎されるも、昼間は炭焼き小屋に隠れ、
日の沈んだ夜だけ行動が許された。
日中、村の人間以外に見つかってしまえば、たちまち捕まってしまう。
奉行所へ信者を密告すれば、銀100枚の褒美がもらえる。
それが司祭だと銀300枚に跳ね上がる。
"じいさま"こと、長老のイチゾウ(笈田ヨシ)と、
信仰心の厚いモキチ(塚本晋也)は、
「司祭さま達はわしらが守る!」と頼もしく言う。
日本で貧しい暮らしを強いられている大勢の人々に、
自分たちが必要とされていることに感激するロドリゴとガルペ。
だが、過酷な隠匿生活で精神状況が不安定になる。
フェレイラを探し出すのが目的。
いつまでもこの村に居てもはじまらない。
奉行のキリシタン探しがイチゾウ達の村にまで及んできた。
イチゾウをはじめ、4人の村人が捕まってしまう。
踏み絵をさせられ、十字架に唾を吐かさせられる。
ロドリゴたちのため、最後まで信仰を捨てなかった、
イチゾウら村人3人は、海岸で十字架に磔(はりつけ)にされ放置される。
讃美歌を歌いながら、6日目で絶命するモキチ。
唯一、助かったのは、
踏み絵を踏み、十字架にも躊躇なく唾を吐きかけて許された、キチジローだった。
自分たちを歓迎してくれ、匿ってくれた、
イチゾウやモキチの壮絶な死を目の当たりにし、
ロドリゴとガルペは、自身らの無力さに嘆く。
これほどまでに厚く信仰している者たちを救ってやることができなかった・・・。
その後、ロドリゴとガルペは別行動をとることに。
二人一緒だと目立ち過ぎるし、
フェレイラを捜すにも別々の方が効率が良いと考えたからだ。
ロドリゴは、前に行ったことのある、キチジローの村がある五島へと向かう。
しかし、五島で山中をさまよっているときに、とうとう奉行に捕まってしまう。
さまよっていたロドリゴを手助けをしてくれていた、キチジローが密告したのだった。
長崎の奉行所に投獄されるロドリゴ。
同時に数名の隠れキリシタンたちも連行されて投獄された。
通辞(浅野忠信)から、転ぶ(棄教する)よう勧められる。
キリシタン取締の責任者、幕府大目付の井上筑後守(イッセー尾形)からも、
「棄教すれば、他のキリシタンたちも助けてやる。」と言われ、棄教を迫られる。
だが、棄教を拒むロドリゴ。
隠れキリシタンたちも棄教を拒む。
しかし、隠れキリシタンたちへの過酷な拷問や、残酷な処刑を目の当たりにし、
自分の無力さに、信仰の意味に、揺らぎはじめるロドリゴの心。
自分が棄教さえすれば、苦しめられている者たちが助けられる、殺されなくて済む。
踏み絵を踏み,家族を見捨て、村人たちを見捨て、最後は自分をも売ったキチジローが、
その都度 自分のところへやってきては赦しを請う。
このユダのような男が助かって、なぜ他の者たちはことごとく殺されてしまうのか?
一緒に日本へ来たガルペも壮絶な最期を遂げてしまう。
奉行所のはからいで、師であるフェレイラとも再会を果たす。
だが、既に棄教し、別人のように変わり果てた師の姿に絶望する。
自分が棄教しない限り、許されることはないと、
既に棄教した信者たちも、むごい拷問にかけられてしまう。
誰も救うことができぬまま、信仰をつらぬいて意味があるのか?
ロドリゴは極限にまで追い詰められていく。
神はなぜ沈黙したままなのか?
凄まじかった・・・。
PG12指定だったが、かなり過激なシーンが多い。
冒頭からさらし首が並んで、宣教師たちが磔にされて熱湯をかけられるというシーン。
火炙りに、簀巻(すまき)に穴吊り、問答無用で首をはねるシーンも・・・。
その首が地べたを転がって、他のキリシタンが泣き叫ぶ。
血の轍を付けながら、首を失った体が引きずられ、本人が掘った穴に捨てられるという・・・。
これはちょっと、さすがに中学生以下には刺激が強過ぎる。
ちょうど学習するのが、そのくらいなのでPG12は妥当か。
どれもキリシタン弾圧時、実際にあった拷問らしく、
実在した幕府の大目付、井上筑後守政重が、島原の乱後に考案し実施させたという。
原作の遠藤周作の"沈黙”は、フィクションではあるが、
当時のキリシタン弾圧の記録に基づいて、忠実に描かれているようだ。
棄教した人間の記録がないということで、そこに着目して本作を執筆したという。
本作には音楽(BGM)がほとんどない。
あっても、かすかに聞こえる程度に抑えられている。
大部分は、波の音,風の音,木々の音,それら自然音のみ。
BGMがないので、悲鳴やうめき声もリアルに伝わる。
映画が終わった後の、スタッフロールすら波の音だった。
俳優たちが素晴らしかった。
ロドリゴとガルペ、外国人俳優の二人。
主役のロドリゴ役、アンドリュー・ガーフィールド。
これまでも、ソーシャル・ネットワークや、アメイジング・スパイダーマンなど、
多数の話題作に出演していたようだが、自分は初めて見た俳優さん。
物語が進んでいくにつれ、どんどんやつれ、どんどん悲壮感が増してゆく。
できる限り時系列に沿って撮影されたらしいが、どのシーンも素晴らしい演技だった。
相方である、ガルペ役、アダム・ドライバー。
最初に顔を見たとき、
!?
このデカっ鼻の特徴的な顔、どっかで見たことあるよな~。
そう思っていたら、スター・ウォーズ フォースの覚醒で、
ダース・ベイダーの再来ともいうべき悪役、カイロ・レンを演じていた俳優さんだった!
これまた凄まじいほどの演技力で見せてくれる。
体を張った壮絶な最期は必見。
物語の起点となる人物、フェレイラ司祭を演じた、リーアム・ニーソン。
どっかで聞いたことのある名前だよな~。
何の映画に出ていたんだっけ・・・。
!?
スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントム・メナスで、
オビ=ワンの師匠、クワイ=ガン・ジンを演じた俳優さんだった!
クワイ=ガンとカイロ・レンが共演とか!
スター・ウォーズファンにはたまらない。
しかしジェダイな衣裳もそうだったが、西洋人なのに着物が似合うな、このおっちゃん。
日本人俳優も負けていない。
井上筑後守役のイッセー尾形、物腰が柔らかく、一見 柔和な奉行だが、
実は冷酷で悪魔のような残酷な拷問を考えるという、とんでもない人間。
それを、ひょうひょうと演じていた。
通辞役の浅野忠信、ロドリゴに親密に寄り添っては、ひたすら棄教を促す。
淡々とうすら笑いを浮かべながら、拷問を見せつけて棄教を促す。
見ようによっては井上以上に不気味な存在。
そんな役どころを、ハリウッドでも顔が知れている浅野忠信が演じる。
最初に出会い、最初に犠牲になってしまうキリシタン、
イチゾウ役の笈田ヨシ氏と、モキチ役の塚本晋也氏。
笈田ヨシ氏は、見馴れない俳優さんだったが存在感バツグン。
なんでもパリ在住で、あちらで活躍されている役者さんらしい。
村の長として、最後まで清廉とした役。
そして、笈田氏と共に、もっとも過酷なロケに挑んだ塚本氏。
シン・ゴジラにも、学者の役で出演していた。
自身が映画監督もされているこの方、
監督の要望を超える凄まじいロケに挑み、壮絶な最期を演じた。
最初の犠牲者として、あのシーンは強烈に印象に残る。
隠れキリシタン役の、加瀬亮と小松菜奈ちゃん。
実年齢、かなり差があるけれど夫婦役。
首チョンパされる加瀬亮。
夫の首が転がった瞬間、絶叫する小松菜奈ちゃんが印象に残る。
その後、簀巻きにされたときは、無抵抗で海に沈む。
「キリシタンは死んでもパライソ(天国)に行ける」というのを信じていたし、
目の前で夫が首をはねられれば、そりゃもう生きる気力すら失うだろう。
ともかく、二人とも壮絶な役だった・・・。
キーマンとなる男、キチジローを演じた窪塚洋介。
キリスト教を信仰しながらも、ひたすら生きることに執着し、
簡単に踏み絵にも応じ、ときに自身に赦しを施してくれた司祭をも売って必死に生きる男。
踏み絵に応じなかった家族全員が簀巻き状態で焼き殺され、
応じた自分がただひとり生き残り、その罪悪感を抱えたまま生きる。
だが、その後もやはり、生き延びるために踏み絵を踏む。
その都度、司祭に赦しを請いにゆく。
そんな、ある種もっとも人間臭い男を、全力で演じていた。
チョイ役だが、日本を代表するコメディエンヌ、片桐はいりが隠れキリシタンの村人として登場。
日本語が解らないロドリゴ相手に、長崎弁でしょうもない赦しを請いに来る。
そのやり取りが滑稽で、劇中、唯一笑えるシーンがここ。
あとはプロレスラーの高山善廣が牢番役で登場。
巨体と怪力で、捕えられたロドリゴを乱暴に扱う。
こういう遊び心のあるキャスティング、嫌いじゃない。
もうほとんどの劇場で公開終了してしまったが、
興味のある人は、DVDが出たらレンタルででも観て欲しい。
宗教がストーリーの根本ではあるが、そこまで強いメッセージ性は感じられなかったので、
キリスト教徒のひとでも問題なく観られるはず。
残酷なシーンが多々あることは覚悟して。
PG12なので、歴史の学習も兼ねて小学生に見せようと考えている人は慎重に。
美しくも泥にまみれた映像、音楽無しながらあらゆる音が耳に入ってくる音響。
なによりも登場人物たちの心境や、その移ろいの過程のリアリティ。
内容そのものよりも、様々な要素に見入ってしまう。
この映画は159分もの長編。
当初、内容が退屈そうに思えたので心配だったが、
見入ってしまって、あっと言う間に感じた。
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