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公開当時剣豪アクションのような紹介のされ方をした映画だが、むしろ社会派ミステリーと呼ぶにふさわしい内容だ。関ヶ原から16年、天下泰平の世に生きる術をうしない、食い詰めた一人の浪人が井伊家の門を叩く。「切腹のため屋敷の軒先を貸してほしい」という浪人の申し出に、家老(三國連太郎)は「またか」という顔をするのだが…
カンヌで評価された本作だが、小林監督が意図したテーマとは別に、“切腹”という悲壮死を自ら選ぶ日本人の姿が外国人の目にはとても新鮮にうつったそうなのだ。面子やプライドにこだわる武士の愚行を描いた当時の邦画としては斬新なシナリオも、ほとんど注目されなかったという。
臭いものには蓋をするのは組織の常套手段であり、支配層とはすべからくそういうものであるという共通認識が、日本よりも外国特にヨーロッパでは一般に根付いているからではないか。偉い人はモラリストでなければならないという幻想をいまだに信じているのは日本人ぐらいのもので、組織のトップがマスコミの前でペコペコ頭を下げる姿など海外で見ることはほとんどないだろう。
「食うに困ったからあんたの家の前で自殺しちゃうよ。それがやだったらお金めぐんで」と無理な因縁をつけてきたタカリ屋を追い払おうとしただけで、屋敷で大暴れした浪人のせいで大事な部下を何人も失ったあげく幕府にバレたりすればそれこそ一大事、隠蔽工作に走ったのも組織を預かる長の判断としてはしごく当然のように思えるのだ。
この映画の魅力は、そんな浪人の非常識行動を「あいや、またれい」と(貧困描写を間に挟み)観客の情に訴えかけるシナリオに転換させたそのトリッキーさにあると思うのである。しかし、日本人の観客ならまだしも、切腹が物珍しい外国人にそれがどこまで通じたのかと言われると甚だ疑問なのだが。
切腹
監督 小林正樹(1962年)
[オススメ度
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