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ノーベル文学賞受賞記念番組の中でカズオ・イシグロが、フランス富裕層が抱えるある“疚しさ”について述べていた。ナチス占領下のパリでは、ユダヤ人の居場所をナチスに密告することによってその迫害から逃れたフランス人がたくさんいたというのだ。監督ルイ・マルの自伝的作品と伝えられる本作は、その“疚しさ”を子供の視点から描いた1本といえるだろう。
カソリック系寄宿舎学校で学ぶカンタン、理数系はからっきしだが、読解力や作文には非凡なところをみせるルイ・マル監督の分身だ。転入生のジャン・ボネは文科系のみならず数学にも秀でた能力を発揮する優等生。ご禁制の書物や宝物探しゲームを通じて仲良しになった二人だが、ボネ出生の秘密を知ってしまい…
校長でもあるジャン神父は、学内に複数のユダヤ人を匿っているリベラリスト。生徒父兄合同ミサでも「差別はいけない」と説教するが、不快感も露に途中退席するフランス人紳士。レストランで食事を楽しむドイツ人将校グループを横目にこれ見よがしのユダヤ人狩りをするフランス親衛隊。この映画にはそんなナチスに忖度するペタン政権を揶揄するシーンが数多く登場するのだ。
寄宿舎の賄いをしていたジョセフの密告がきっかけでゲシュタポの手入れがはいり、寄宿舎内に匿われていたボネを含むユダヤ人生徒や匿っていた神父が収容所送りになってしまう。移民の子供かと思われる足の悪いジョゼフに対する処罰が、めぐりめぐって結局は廃校へとつながってしまう負の連鎖。差別された人間が差別する側に回った時に感じる薄気味悪さをこの映画は鋭くついている。
事件発生から約半世紀を経てようやく映画化できるまでにいたった映画監督のトラウマの深さを知るよしもないが、「あの朝の日のことは死ぬまで忘れない」というマル自身のナレーションに何ともいえない哀感がこもっている作品である。
さよなら子供たち
監督 ルイ・マル(1987年)
[オススメ度
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