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精神科医師のブログ。
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なぜ、安曇総合病院への放射線治療機器という話しに?

2011年08月20日 | Weblog
(以下、あくまで樋端個人の私見です。)

前回のエントリーに関して、いろいろな人に意見を聞いた。

件の宮澤敏文県議会議員ともメールで意見、情報を交換することが出来た。
県議からは「どうもスタートの基本的認識が異なっている」という指摘をうけた。(同感である。)
すでに県議には私からの私信をも外部(大町保健所長など)に無断で公表されてしまっており、オープンな議論をしたいという事なので、県議のメールでの発言から、これまでの経過と県議の主張をまとめてみる。

以下は、宮澤県議のメールより抜粋させていただいた内容である。

*********************************

「大町保健所や私たち行政のかかわるものは、何よりもプロセスを大切にし、発表されるプロセスに誤りはない。」

「今回の病院再構築に対しても、市町村財政が厳しく、多額な出資は、行政もJAも難しい商況にあり、昨年秋からまず行政に理解をいただこうと院長と前事務長と運営委員長の私の3人で大町市、安曇野市、池田町、松川村、生坂村、白馬村、小谷村とお願いに回り、しぶしぶ(1)25年度再構築スタートということ (2)国・県から7億円をもらうという条件の元一応の合意をいただいた。」

しかし
「50億円を超える出資は、大変な額で、地元市町村はがん治療、緊急医療の確立を望む完結医療の実現のために出資すること」を明確に院長に訴えていた。

「現在日本の医療政策の基本は行政的には「第2次医療圏完結体制の整備」であり、「いつでもどこでも義務を果たす国民に一定レベルの医療サービスの提供」することは国政の基本である。」
だから
「県は県内10の医療圏に1つずつの、がん診療連携拠点病院の設置を求めている。当然、2次医療圏の1つである大北医療圏(人口60000人と木曽医療圏の3万2000人についで2番目に小さい。長野県の人口の3%)にもがん診療連携拠点病院が必要である。」
という前程があり、そして、
「制度上、がん診療連携拠点病院には放射線療法提供体制の整備が必要。」なのだそうだ。

これに関しては、
「がんセンターのような超高度を求めているのではない。がん連携拠点病院は2次医療圏大北地域の一つ作るとの県の方針で、平成21年の9月県議会で県議の質問に対し、「がん放射線治療医は責任もってまだ設置されていない2次医療圏に対し長野県が配置する」と当時の衛生部長が確約した。」(→ここ?確約は言い過ぎじゃ・・

「市立大町総合市民は医師不足や経営難であり自治体病院の再建計画を提出した平成21年に「慢性期」中心の病院を目指すといい、将来のがん診療連携拠点病院には手をあげなかった。(→こちら?)(※「なお、厚労省は、概ね 2 次医療圏に 1 箇所程度の「がん診療連携拠点病院」の指定 を行っているが、当院の規模、放射線治療設備の不備から、当面指定獲得は目指さない方針としたい。」)」

「だから大北地区にあるもう一つの病院である安曇総合病院に期待するしかなく、既に「がん相談支援拠点センター」を設置した。そして、将来の「がん診療連携拠点病院」を目指すという方向性を病院からも聞いている。」

こういう状況の中で、
「国では膨れる医療費をコントロールするため、平成23年から25年に地域医療体制整備のための最後の医療圏整備策として、全国で3000億円(長野県で120億円)ほどを当て、各病院ごとの計画ではなく、2次医療圏を管理する県保健所が各病院と連携しての計画作成をもとめた。

大町保健所においても、22年の11月頃から市立大町病院と安曇総合病院に何度も話をし、両病院で院長レベルや事務長レベルで何度も会議を持ち、調整をし、大北医療圏としての案をまとめ、22年度3月末までの整備締め切りに、がん拠点病院を目指しての放射線治療機器の整備のために7億円(3年で20億円)を県に陳情した。
これは院長「私案」などではなく安曇病院の正式案として扱っている。」

「大北医療広域は、(1)他の10医療圏より医療整備が遅れていること、(2)2つの病院をバックアップする財政的バックアップ力が医療関係者には申し訳ないのですが脆弱。(1)(2)を考えると県や国の制度をうまく使って医療環境整備をしていくしかない。」

「住民が望む医療の最低限は地域病院で完結していただきたいと願う地域の思いでもある。今さら大北地域のがん治療の拠点病院を辞めるなどいう発言は、許されるものではない。「説明責任」が何より大切。」

「ここまで来るにはいろいろとドラマがあった。経過を踏まえ、病院関係者と地域行政じっくりみんなで話し合いベターを求めていけたらと思う。そうでなれけばとんでもない方向へ行ってしまうだろう。」

「住民の最大の関心事は医療です。医療は医師だけでなく医療関係者だけのものでもない気がします。地域を挙げ議論し作り上げていく必要性があるのでではないでしょうか。」

「もっとさわやかに、オープンでこのような重要な話ができることを願う。」


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オープンでこのような重要な話しができることが必要、地域を挙げ議論しつくりあげていく必要があると言う点では、まったく同感である。
いろいろ情報を丁寧に教えていただいたのはありがたい。
おかげではじめて全体像が見えてきた。

地域を挙げてオープンな議論をするためには正確な情報公開が必須である。

しかし、これまでのプロセスに関してあまりにも秘密裏に物事がすすめられてきており、内容に関してはあまりに性急で杜撰な計画で一部の人間が暴走しているという印象をうけた。
私には補助金の予算ありきのイメージのみで物事がすすんでいるように思える。
建物や機材はお金さえあれば買えるのかもしれないが、より重要な人材の確保については「大学医局に依頼する」こと以外は何も決まっていないのだという。
(大学の放射線科の医師にも聞いたがとても医師派遣は不可能とのことだ。)

プロセスを大事にすると言うが、そもそも「しぶしぶ」市町村(長)から合意をもらうことが適切な政治プロセスとはおもえないし、県議が委員長をつとめていた安曇総合病院運営委員会はあくまで諮問機関(応援団)にすぎず、厚生連病院の運営方針の決定をする場でもない。
県議の言う「説明責任(アカウンタビリティ)」という言葉の使い方もよくわからない。

「一度やるいったことをやめるということはは無責任だ。」というような意味なのだろうか???



住民に負担のことは言わずに、「この地域にがん診療連携拠点病院、放射線治療機器が欲しいか?」と聞けばそれは欲しいと答えるだろうし、必要なのかといわれればそれは必要なのだろう。
我が国のがん治療においては放射線治療は十分活用されていないといわれているし「気付かず型」「がまん型」のニーズがあるかもしれない。
安曇総合病院にがん放射線治療の体制があればがん治療の選択肢が広がるし、松本まで行かなくても治療が受けられるようになる。(選ばれるかどうかは別問題だが。)
そしてペイするかといえばおそらくどう頑張ったところでペイしないだろう。

しかし、そもそも2次医療圏で全て完結するなら2次の意味はない。

医療圏ごとでの達成率の順位をつけても、人口も状況も違うし医療圏を越えての受診行動なども今や普通であり実情を反映しているとはいえない。そもそも隣接する人口42万人の松本医療圏(大学病院を抱える)と、人口6万人の大北医療圏に用意できる医療体制が同じなわけがない。
オリンピック道路の開通(白馬から長野は近くなった)、権兵衛トンネルの開通(木曽と伊那谷が結ばれた)など交通事情もかつてとは変わってきているところもある(市長村が合併したように医療圏も変化していくものだ。)長野自動車道に直結する高瀬川に沿った松糸高規格道路も計画されている。
医療も高度化し集約化しないと十分な体制を用意できなくなった。どこまでその医療圏内で担うかということも考えなければならない。
安曇総合病院や市立大町総合病院の医師も安曇野市や松本から通っている人も多い。遠くは伊那から通っている医師もいる。
大雑把な区切りで完結などと言うのではなく、疾患ごと、ニーズごとでもっと地域の実情に合わせて細かく考えていかなければまったく意味がないだろう。

がんのように待てる疾患と、脳卒中や心筋梗塞のように待てない疾患があることを考えてもそれはわかる。
住民がのぞむ最低限の医療とはどこまでなのだろうかといったことや、それにかかるコストもちゃんと議論しなくてはいけないだろう。

行政側は箱ものや機械はそろえるけれども、そこに人はつけない。(むしろ、つけられない。)
一部の例外(自治医科大学の義務年限内の医師など)を除いて技術職、専門職、資格職である医師や看護師などを強制的に配置する権限は行政にはない。
設備があるだけでなんとかしろというスタンスだが、放射線治療をやるにはリニアック1台あればすべてOKというわけではなく、コンピュータ技術を使って高精度に照射するための周辺機器や専門のスタッフが必要だ。こうした専門家はまだまだ数がすくない。
リニアックのある施設は全国で850病院あるが、常勤の放射線治療認定医の人数、治療担当技師の経験年数、年間の治療患者数、保有する治療装置の種類など、一定の基準を満たしている認定放射線治療施設は約200程度しかないのである。
患者の側も動ける人なら自分の体のことであるから、できれば認定放射線治療施設で、放射線治療機器もリニアックではダメで、より高性能なトモセラピーやIMRTじゃないと、さらに陽子線じゃないと、重粒子線じゃないと・・と調べ納得のいく医療機関に移動することは止められない。
現に宮澤敏文県議の母だって信大や相澤病院を飛び越して、国立がんセンターで治療を受けていたではないか。(→こちら


【日本アルプス先端医療いやし産業構想】
官沢敏文の提唱
「・・・
 わたし自身、ガンに苦しみながら、短い人生を生き貫いた母を見つめ続けてきました。母は、先端技術を備えた治療体制が地元にないため、遠く、人の波であふれる東京で、妹の小さな下宿から一年問近くも、国立ガンセンターでの放射線治療に通いました。母は、副作用による身なりの変化に対する周りの目を気にしながら、電車で通院しなければなりませんでした。あれだけ『治るまでは、帰らない』ときっぱり言い続けた母の入院日記には『帰りたい、帰りたい、うちに帰りたい』と、日に日に弱っていく力を振り絞って書いてありました。わたしには、今でも母が『ガンのつらさ、遠く離れた治療を受ける者の心のいたみ』を訴えている気がしてならないのです。
・・・」



もし信州大学病院がIMRT(強度変調放射線治療)をはじめたり、松本の相澤病院で陽子線治療(現在は300万円弱の自己負担、リニアックより少ない回数で治療可能)を受けられるようになり、それが保健適応となったとしても、安曇総合病院にムリしていれた性能の劣る放射線治療機器で放射線治療を受ける人がどのくらいいるのだろうか?

陽子線治療の設備をつくるには何十億円も必要だが大北にも一つ、という話しになるのだろうか?


ここでは再構築などというあいまいな言葉の影でかすんでしまっているが、「病棟が地震で倒壊してしまうかもしれない・・。」ということと「新たに放射線治療機器を設置しよう。」というのは全く次元の違う話である。

すでに建屋(たてや)に2億円などという話しまででているが、具体的な放射線治療を必要としている患者数(県の資料には約100人とある。)やその分布、動向といったデータはあいまいであり、実際に誰が、どのようにやるかということも全く決まっていないようだ。

現在大北の住民の中で、がん放射線治療を必要とする人がいて、その人たちは、どこでどのような治療受けていて治療機器が安曇総合病院にないことでどれだけの不利益をこうむっているのかといったようなデータをもとに冷静に議論したい。
参考資料に上げたもののように、疾患ごとの医療へのアクセスなどを地図上に展開したデータなどが欲しい。
また全国的、世界的に放射治療機器までのアクセスは平均何分くらいなのか、離島やへき地ではどのような状況なのかといったデータも欲しい。
それでも、どうしても放射線治療機器や急性期によった医療が欲しいというのであれば、大北地域の住人全体の利便性を考えるなら、大北地区の中心に位置し、人口もより多く(約3万人)松本市からも遠い(約40km)大町市にてこ入れした用がベターだろうとおもう。

こういったデータをまとめるて分かりやすく示すのは保健所の責任だと思うが、そのようなデータはあまりない。

仕方ないので手に入るデーターで試算をしてみる。
安曇病院の平成21年度の院内がん登録が年間約200人、そのうち放射線が有効な腫瘍が半分で、そのうち放射線治療の適応になるものが半分として年間約50人くらいか。
また人口1000人当たり年間1.58人(全国平均)が放射線治療をうけるというデータがあるが、これからすると大北地区(約6万人)のニーズは94.8人となる。また長野県で平成20年に放射線治療(対外照射法)を受けた人は2327人であり(平成21年地域保健医療基礎統計)、大北地区は長野県の人口の3%であるから69.8人と試算される(高齢化率の違いなどは考慮していない)。
しかしこれらは全ての腫瘍をあわせての数字だから、放射線治療の多い頭頚部の腫瘍(耳鼻咽喉科、脳神経外科)や、乳腺外科、婦人科、消化器内科(食道がん)には常勤医がいない当院ではこれよりはかなり少なくなくなると思われる。ホスピスがあれば緩和照射として骨転移に関しては使うことはあるのかもしれないが。
またより高度な集学的医療がおこなえる松本、長野の大病院への流出もあるから、どんなに多く見積もっても年間50人程度だろう。しかしリニアックは年間100人は照射しないとペイしないといし、放射線治療のガイドラインによれば一人の放射線治療医は年間200人程度の新患+再診患者の治療をおこなうのが適当とされるが、それには到底及ばない数だ。
今後どんなに放射線治療の需要が伸びていくとしても大北医療圏に一人の放射線治療医をおくほどの需要はない。
まずは当院でも大町病院でも不足している内科系医師(消化器内科医、総合診療医)の招聘が先だろう。

院内でおこなわれた別の試算ではさらに厳しく、ペイするには年間200人程度が必要だが予想される新規患者数は年間20人程度という結果だった。

がん診療の均てん化は重要だが、ネットワークの考え方を前提にして行かないと無駄な投資になってしまう。
放射線治療医も少ない現在、どう考えても放射線治療機器はより広域的な地域で計画配置したほうが良い。



「がん医療には手術、放射線、化学療法、緩和医療、患者からの相談に応じる業務が必要ですが、地域がん診療連携拠点病院はその1セットをそろえていなければならないことになっています。しかし、いろいろな手術を少しずつ行っていたのでは技量の維持ができません。放射線医療も集約化できるはずです。患者の身近にあると便利なのは、化学療法であり、緩和医療であり、相談です。ですから、手術と放射線は県庁所在地近辺にまとめ、そのほかの医療は地域で担当するというように機能を分けたほうが賢明です。(国立がんセンター中央病院長土屋 了介 氏)
 (日経メディカルオンライン2010. 4 がん診療連携拠点病院・4年目の決算



放射線治療はがんの種類や患者の状態にもよるが1日1回照射(10分程度(照射は2~3分))、週5回照射で行い、治療回数は数回から40回程度だ。
透析治療のように一生ずっとというわけではないのだから放射線治療が必要な患者には電車代、ホテル代、タクシー代の補助をだすといったような考え方もあるだろうし、大北地域の患者には相澤病院ではじめると言う陽子線治療(高度医療として自己負担300万円弱)の費用の一部を負担するという考え方もある。

中川院長は、「信州大学病院にもリニアックは1台しかない。放射線の治療のニーズが増えれば松本地区で担えなくなり、患者があふれてくるから安曇総合病院にも放射線治療機器が必要。」と言っていたがそんなことはありえない。
ニーズが増えればそれにあわせて松本の大病院も設備を増強するであろうことは火をみるより明らかだ。

県議のこれまでのドラマはともかく、やる人も決まっておらず、受益者がどのくらいいるかどうかも明確ではなく、赤字運営となった場合はだれが持つのか、などの点が詰められていない状態で、予算を獲得しようとして計画が動き出すのは順序が逆だろう。

職員全体会で、この計画をもっともプッシュしていた院長が「自分はもうすぐ定年でやめるので、今後のことは責任は取れない。」と言っていたのを聞いてあきれはてしまった。

無茶な計画だと思えば撤退する勇気も必要だ。
こんな計画を独立採算の病院がおしつけられて将来に禍根をのこす必要はない。
じっくりと必要性と実現可能性を検討してからでも遅くはない。

何より一番の問題は、情報公開があまりになされていなかったことだとおもう。

しかしこれで、やっと初めてスタートラインに立ったといえる。

地域住民に積極的に情報公開し「それぞれが何か地域、そしてこの病院にに必要か、自分に何ができるか。」を考えてもらうべきだろう。
それでも地域の住民が、「おらが町にも何でも出来る総合病院(今回は放射線治療設備)が必要だ。そのために相応の負担はする。」と選んだ結論なら仕方がない。

それが民主主義のルールというものだ。

ただ、診療報酬自体の締め付けも全体的に厳しくなり、余裕のあるところで稼いで、心意気でやっている赤字の部門にまわして全体でバランスをとるということも難しくなってきている。

ペイしないことをJAの組合立の病院にお願いするのであれば、その場合はそれでうまれる病院の赤字分を公的資金で補填しつづけてもらうか、県立や市町村立の病院に移管した上で独自に運営してもらうかしなければおかしいと思う。
もっとも公立病院も独立採算をもとめられて、赤字を垂れ流すことはできず、厳しくなってきてはいる現在それは困難な事であろうが・・。

最後に一言。
「せいてはことを仕損じる。過ぎたるは猶及ばざるが如し。」
大北のそして全国の地域医療史にのこる愚行をおこなわないように祈りたい。

【初音ミク】僻地医療崩壊を歌う