そして東海大学の高度救命救急センターの山本五十年氏の話。
プレホスピタルからERへと繋がる救命救急医療のシステムが悲鳴を上げているそうだ。
東海大学の高度救命救急センターでも65歳以上の高齢者の搬送が半数を超え、入院した高齢者の半数が転院や転床、あるいは死亡しているという。
高齢社会をむかえるにあたりこれでは救急システムももたないということらしい。
病院前、あるいは病院の入り口の部分にあたるはずの救急の世界でも学会のテーマとして「介護 and/or 在宅医療と救急医療の連携」ということがかげられるほど、出口問題が取りざたされているらしい。
飲み会のときに救急救命士さんから、「これぞ救急というようなケースは稀で、高齢者の搬送が多く、しばしば冷たくなったご遺体を搬送することになるケースも多い。」という話は聞いていた。
在宅療養をおこなっていた寝たきり状態の高齢者が衰弱したり、朝起きたら痰をつまらせて冷たくなっていたりしてなくなるのは急変ではなく悪化であり、だからターミナルなのである。
そこで救急車を呼ぶと、検案(犯罪性の有無)や検死などで大騒ぎになったり、多くの人を巻き込んで大変なことになり、たとえ蘇生に成功してもむしろ不幸な結末になることが多いだろう。
医療の出口側にいることの多かった自分にはまことに実感できる視点ではあるが、救急の世界でも在宅医療福祉が話題になっていると言うことは驚きであった。
山本先生は、そういう問題意識から救急医療出身ながらメディカルホームに診療所や訪問看護、介護の機能をもたせた、湘南メディケアセンターをつくってしまったという。
うーむ・・・。
これぞまさにニーズオリエンテッドな実践。
すごい。
そして国立長寿医療センターの洪英在先生の講演。
高齢者医療のナショナルセンターである国立長寿医療センターではこの春からモデル的に20床の在宅医療支援病棟を立ち上げたそうだ。
コンセプトは在宅療養を支援する病棟。
高齢医者の尊厳を大切にしつつ訪問診療の負荷がかかっている在宅診療所医師の負担を減らし在宅のバックアップを行うことで在宅医療を推進するのが目的だ。
・患者は登録制。
・入院かどうかの判断は在宅主治医の判断を優先し、緊急入院、レスパイト、看取りまでどんな状況の方でも断らない。
・看護が完全プライマリ制で継続して支援を行うが、医師はその場の状況で変わりうる。そして看護師は必ず一度は自宅を訪問する。
いいコンセプトだと感じた。
なにより看護師を完全プライマリ制としてケアの観点から継続してかかわるというのがよい。
リハビリのスタッフや訪問看護の経験者を配属することで、病院しか知らない看護師が在宅の視点や技術を学ぶ場にもなるだろう。
登録制ということで地域と病院が一緒にみているという感じがより強まる。
こういう仕組みがあれば在宅医療を一生懸命やっている医師にも大きなバックアップになるだろう。
在宅の支援という目的では老人保健施設との異同はどうだろうか?
老人保健施設はリハビリのスタッフも医師や看護のスタッフも病院ほどではないにしろいる。
そしてキュアではなくケアの発想で作られている。
かつて私が関わっていた佐久老健(老健のモデルケース)では長期の方が老衰という形でなくなられた場合は、看取りもおこなったし、それについてスタッフの話し合いも行った。
しかし医療費は包括であり、医学的には安定した状態が前程のためスタッフ的にも多くの医療介入は期待できない。
また老人保健施設は介護からの連携の位置づけであり、在宅医療支援病棟は医療からの連携という点が異なるのだろう。
それでは回復期リハビリテーション病棟との役割分担はどうだろう。
必要な時期に十分な質・量のリハビリテーションをチームで生活の場である病棟を中心に行うと言うコンセプトの回復期リハビリテーション病棟ではADLをあげることそして在宅復帰を目標としている。
ケアが中心の慢性期の患者を長期入院させていた療養型病床群の診療報酬が切り下げられる中で、回復期リハビリテーション病棟の制度は全国の療養型や中小規模の病院の救世主となった。
しかしつくづく感じるのは回復期リハビリテーション病棟はリハビリテーションとはいえキュアの発想がベースにある場所だと言うことだ。
急性期期病棟から回復期リハ病棟という流れは、初めて在宅医療を導入する場合は良いとしても、何回も入退院を繰り返している場合は長期に入院することで逆に在宅復帰を妨げてしまうケースもあるだろう。
院内外の連携がなかなかうまく行かないのもしばしば感じることだ。
またリハビリテーションが有効な脳卒中モデルのケースには良いが、廃用モデル、認知症モデルのケースではむしろ老人保健施設の方がよいというのは回復期を運営してみて感じたことだ。病棟の看護スタッフの自宅訪問というのも考えたこともあったが、交代勤務の看護師が病棟を外れられるほどの余裕は無く、退院前訪問はリハビリのスタッフとケースワーカ、ケアマネージャーの訪問で終わることがほとんどであった。
廃用症候群に関しては病院内にリハビリテーションの視点や仕組みが行き届けば、、若年者の脳卒中や頭部外傷に特化したスパルタ合宿型リハ病棟以外の回復期リハ病棟はその役割を終えるだろう。
(数年のうちに制度は大きく変わると思われる。)
高齢者がますます増える今後はケアモデルの在宅医療支援病棟のニーズはあると感じる。
それではホスピスや緩和ケア病棟とはどう違うのかだろうか?
緩和ケア病棟も在宅支援病棟もどちらもQOLの向上を目的とし、ケアの視点で運営されている点では共通である。
癌の緩和ケアも技術が進歩し、訪問診療をおこなってくれる医師がおり、日中付き添える家族がいるなど条件が整うなら自宅で行う選択肢が優先されるだろう。
しかしいざと言うときに入院できる安心感があるから在宅療養がつづけられるということもあるに違いないし在宅療養を担当する医師も安心して引き受けることができるだろう。
野の花診療所や、花の谷クリニックをはじめとする有床診療所や過疎地域の小規模の病院で実質的に在宅医療支援病棟と同様のことをやっているところは多いと思われる。
そしてそういうところは訪問診療や看護も自前でやっているかもしれない。
もちろんそういうところには頑張ってもらいたいのだが、しかしこの在宅医療支援病棟、都市部の中規模~大病院でこそやる意義があると思うのだ。
それは回復期リハビリテーション病棟が、チーム医療とリハビリのモデルケースとすることで病院全体へ波及効果を狙ったのと同様ねらいである。
何より病院内で在宅医療やケアの視点を広めることこそ期待される役割だろう。
そしてこの在宅支援病棟は救急医療システムの維持にも貢献するだろう。
地域の二人主治医制を推進し、セミオープンベット形式にすれば顔の見える地域医療の連携も推進されるに違いないし、そういうのがあるのなら在宅医療をやってみようかという開業の先生も増えるだろう。
長寿医療センターでの試みは実験的な試みであるからコストは度外視で運営しており、また別料金がかかる部屋が半数ということでだれでも利用できるわけではないようだ。
平均入院期間は16.5日。がん患者と非がん患者の両方で非癌患者の方がやや多い。
当院でもそうだが、高齢者が入院患者の大半をしめる地域の中小病院では現実的にはそういう形の運営を目指して病棟運営おこなっているところも多い。
たいていの病院にオープンベッドは形の上では用意しているが現実的には使いづらく利用が無い。
結局、病気をこじらせて、あるいは介護が破綻した状態になって初めて簡単な紹介状だけで、あるいはいきなり救急車で来院し、結果としておちついて看取りまでみすえたケアができない。
高齢者の単独世帯や老老介護の世帯や、若年層の貧困化で、介護保険サービスをフルに使ってもそもそも在宅生活困難な障害高齢者は増える一方である。
障害者手帳や生活保護で福祉医療(医療費公費負担)となる人は病院が一番安いということもあり経済的にも在宅医療へのインセンティブが働かない。
しかし精神科医療の立場から言うとますます増えていく認知症をかかえる人への対応はどうなるかという疑問だはある。
統合失調症の患者さんの地域移行で、空いてきたきた精神科病床が認知症の重度のBPSDの患者さんを受け入れるようになってきているが、精神科病院、病棟では合併症や終末期の対応は慣れておらず難しいところが多い。
一方で総合病院精神科も、認知症の患者さんであふれかえり、それ以外の疾患のケアが困難になる。
こういった理由で現実は大変だ。
うちの病院でも在宅医療支援病棟のコンセプトは使えそうであるが、現在の診療報酬の中でクオリティを保ちつつ在宅医療の支援を目指して在宅医療支援病棟と同様のことをやろうとしても足がでる可能性が高い。
長寿医療センターでの試行が始まっているということは近い将来、在宅医療支援病棟は制度化され診療報酬がつくだろう。
地域の病院や在宅をがんばっている診療所をバックアップする意味で早期の制度化が望まれる。
回復期リハ病棟の使命
最期の強がり
プレホスピタルからERへと繋がる救命救急医療のシステムが悲鳴を上げているそうだ。
東海大学の高度救命救急センターでも65歳以上の高齢者の搬送が半数を超え、入院した高齢者の半数が転院や転床、あるいは死亡しているという。
高齢社会をむかえるにあたりこれでは救急システムももたないということらしい。
病院前、あるいは病院の入り口の部分にあたるはずの救急の世界でも学会のテーマとして「介護 and/or 在宅医療と救急医療の連携」ということがかげられるほど、出口問題が取りざたされているらしい。
飲み会のときに救急救命士さんから、「これぞ救急というようなケースは稀で、高齢者の搬送が多く、しばしば冷たくなったご遺体を搬送することになるケースも多い。」という話は聞いていた。
在宅療養をおこなっていた寝たきり状態の高齢者が衰弱したり、朝起きたら痰をつまらせて冷たくなっていたりしてなくなるのは急変ではなく悪化であり、だからターミナルなのである。
そこで救急車を呼ぶと、検案(犯罪性の有無)や検死などで大騒ぎになったり、多くの人を巻き込んで大変なことになり、たとえ蘇生に成功してもむしろ不幸な結末になることが多いだろう。
医療の出口側にいることの多かった自分にはまことに実感できる視点ではあるが、救急の世界でも在宅医療福祉が話題になっていると言うことは驚きであった。
山本先生は、そういう問題意識から救急医療出身ながらメディカルホームに診療所や訪問看護、介護の機能をもたせた、湘南メディケアセンターをつくってしまったという。
うーむ・・・。
これぞまさにニーズオリエンテッドな実践。
すごい。
そして国立長寿医療センターの洪英在先生の講演。
高齢者医療のナショナルセンターである国立長寿医療センターではこの春からモデル的に20床の在宅医療支援病棟を立ち上げたそうだ。
コンセプトは在宅療養を支援する病棟。
高齢医者の尊厳を大切にしつつ訪問診療の負荷がかかっている在宅診療所医師の負担を減らし在宅のバックアップを行うことで在宅医療を推進するのが目的だ。
・患者は登録制。
・入院かどうかの判断は在宅主治医の判断を優先し、緊急入院、レスパイト、看取りまでどんな状況の方でも断らない。
・看護が完全プライマリ制で継続して支援を行うが、医師はその場の状況で変わりうる。そして看護師は必ず一度は自宅を訪問する。
いいコンセプトだと感じた。
なにより看護師を完全プライマリ制としてケアの観点から継続してかかわるというのがよい。
リハビリのスタッフや訪問看護の経験者を配属することで、病院しか知らない看護師が在宅の視点や技術を学ぶ場にもなるだろう。
登録制ということで地域と病院が一緒にみているという感じがより強まる。
こういう仕組みがあれば在宅医療を一生懸命やっている医師にも大きなバックアップになるだろう。
在宅の支援という目的では老人保健施設との異同はどうだろうか?
老人保健施設はリハビリのスタッフも医師や看護のスタッフも病院ほどではないにしろいる。
そしてキュアではなくケアの発想で作られている。
かつて私が関わっていた佐久老健(老健のモデルケース)では長期の方が老衰という形でなくなられた場合は、看取りもおこなったし、それについてスタッフの話し合いも行った。
しかし医療費は包括であり、医学的には安定した状態が前程のためスタッフ的にも多くの医療介入は期待できない。
また老人保健施設は介護からの連携の位置づけであり、在宅医療支援病棟は医療からの連携という点が異なるのだろう。
それでは回復期リハビリテーション病棟との役割分担はどうだろう。
必要な時期に十分な質・量のリハビリテーションをチームで生活の場である病棟を中心に行うと言うコンセプトの回復期リハビリテーション病棟ではADLをあげることそして在宅復帰を目標としている。
ケアが中心の慢性期の患者を長期入院させていた療養型病床群の診療報酬が切り下げられる中で、回復期リハビリテーション病棟の制度は全国の療養型や中小規模の病院の救世主となった。
しかしつくづく感じるのは回復期リハビリテーション病棟はリハビリテーションとはいえキュアの発想がベースにある場所だと言うことだ。
急性期期病棟から回復期リハ病棟という流れは、初めて在宅医療を導入する場合は良いとしても、何回も入退院を繰り返している場合は長期に入院することで逆に在宅復帰を妨げてしまうケースもあるだろう。
院内外の連携がなかなかうまく行かないのもしばしば感じることだ。
またリハビリテーションが有効な脳卒中モデルのケースには良いが、廃用モデル、認知症モデルのケースではむしろ老人保健施設の方がよいというのは回復期を運営してみて感じたことだ。病棟の看護スタッフの自宅訪問というのも考えたこともあったが、交代勤務の看護師が病棟を外れられるほどの余裕は無く、退院前訪問はリハビリのスタッフとケースワーカ、ケアマネージャーの訪問で終わることがほとんどであった。
廃用症候群に関しては病院内にリハビリテーションの視点や仕組みが行き届けば、、若年者の脳卒中や頭部外傷に特化したスパルタ合宿型リハ病棟以外の回復期リハ病棟はその役割を終えるだろう。
(数年のうちに制度は大きく変わると思われる。)
高齢者がますます増える今後はケアモデルの在宅医療支援病棟のニーズはあると感じる。
それではホスピスや緩和ケア病棟とはどう違うのかだろうか?
緩和ケア病棟も在宅支援病棟もどちらもQOLの向上を目的とし、ケアの視点で運営されている点では共通である。
癌の緩和ケアも技術が進歩し、訪問診療をおこなってくれる医師がおり、日中付き添える家族がいるなど条件が整うなら自宅で行う選択肢が優先されるだろう。
しかしいざと言うときに入院できる安心感があるから在宅療養がつづけられるということもあるに違いないし在宅療養を担当する医師も安心して引き受けることができるだろう。
野の花診療所や、花の谷クリニックをはじめとする有床診療所や過疎地域の小規模の病院で実質的に在宅医療支援病棟と同様のことをやっているところは多いと思われる。
そしてそういうところは訪問診療や看護も自前でやっているかもしれない。
もちろんそういうところには頑張ってもらいたいのだが、しかしこの在宅医療支援病棟、都市部の中規模~大病院でこそやる意義があると思うのだ。
それは回復期リハビリテーション病棟が、チーム医療とリハビリのモデルケースとすることで病院全体へ波及効果を狙ったのと同様ねらいである。
何より病院内で在宅医療やケアの視点を広めることこそ期待される役割だろう。
そしてこの在宅支援病棟は救急医療システムの維持にも貢献するだろう。
地域の二人主治医制を推進し、セミオープンベット形式にすれば顔の見える地域医療の連携も推進されるに違いないし、そういうのがあるのなら在宅医療をやってみようかという開業の先生も増えるだろう。
長寿医療センターでの試みは実験的な試みであるからコストは度外視で運営しており、また別料金がかかる部屋が半数ということでだれでも利用できるわけではないようだ。
平均入院期間は16.5日。がん患者と非がん患者の両方で非癌患者の方がやや多い。
当院でもそうだが、高齢者が入院患者の大半をしめる地域の中小病院では現実的にはそういう形の運営を目指して病棟運営おこなっているところも多い。
たいていの病院にオープンベッドは形の上では用意しているが現実的には使いづらく利用が無い。
結局、病気をこじらせて、あるいは介護が破綻した状態になって初めて簡単な紹介状だけで、あるいはいきなり救急車で来院し、結果としておちついて看取りまでみすえたケアができない。
高齢者の単独世帯や老老介護の世帯や、若年層の貧困化で、介護保険サービスをフルに使ってもそもそも在宅生活困難な障害高齢者は増える一方である。
障害者手帳や生活保護で福祉医療(医療費公費負担)となる人は病院が一番安いということもあり経済的にも在宅医療へのインセンティブが働かない。
しかし精神科医療の立場から言うとますます増えていく認知症をかかえる人への対応はどうなるかという疑問だはある。
統合失調症の患者さんの地域移行で、空いてきたきた精神科病床が認知症の重度のBPSDの患者さんを受け入れるようになってきているが、精神科病院、病棟では合併症や終末期の対応は慣れておらず難しいところが多い。
一方で総合病院精神科も、認知症の患者さんであふれかえり、それ以外の疾患のケアが困難になる。
こういった理由で現実は大変だ。
うちの病院でも在宅医療支援病棟のコンセプトは使えそうであるが、現在の診療報酬の中でクオリティを保ちつつ在宅医療の支援を目指して在宅医療支援病棟と同様のことをやろうとしても足がでる可能性が高い。
長寿医療センターでの試行が始まっているということは近い将来、在宅医療支援病棟は制度化され診療報酬がつくだろう。
地域の病院や在宅をがんばっている診療所をバックアップする意味で早期の制度化が望まれる。
回復期リハ病棟の使命
最期の強がり