tokyo_mirage

東京在住・在勤、40代、男。
孤独に慣れ、馴れ、熟れながらも、まあまあ人生を楽しむの記。

エレベーターの緊張

2013-03-06 23:43:41 | 今日の出来事
昼飯を食いに行こうとエレベーターを待っていたら、
僕と10歳違いくらいの先輩が横に立った。

「…です」と、「お疲れ様です」と言ったような言わないような曖昧さで会釈する。

「おお、なんか服装がかぶってるな」と彼が言う。
確かにお互いジャケット、ノーネクタイで、同じ巻き方でマフラーを巻いている。
だが、ジャケットの色味もマフラーの色味も違うので、「かぶっている」というほどではない。
これはもちろん、エレベーター待ちの手持ち無沙汰な沈黙を埋めるための一言に過ぎない。

「そりゃ、男の通勤の服装のバリエーションなんて、かぶりますよ…」

と、我ながらなぜか「努めて明るい調子で」答える。
「そうか」と彼。そこにエレベーターが来る。乗り込む。

「お前、結婚してたんだっけ?」
「いえ、まだです…ヤバいですよ」
「まだ40になってないだろ?」
「まだです」
そこでエレベーターは地上に着き、ドアが開く。
「じゃあ大丈夫だよ」
「あは、そうですか…では!」

出たところで別れ別れになる。
何が「大丈夫」かわからないが、とりあえず会話は「落ち」た。

エレベーターでの「会話のつなぎ方」がいまひとつわかっていない。
大概は沈黙でやり過ごす。

北野武の映画『ソナチネ』に、
反目しあうヤクザの一行がホテルの同じエレベーターに乗り合わせるという場面がある。
男たちで埋まったエレベーターは静かに動き出す。
沈黙。
しかし、誰かの目線がチラッと動いた瞬間、銃撃戦となる。
男たちは次々と倒れ込み、最後に、一番後方の隅で別の男を盾にして撃ち続けていたたけしだけが生き残る。
…そんなシーンだった。

大勢の人間が乗りながら、沈黙に包まれたエレベーターに乗り合わせると、必ずあのシーンを思い出す。

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