ここのところ、国民投票法案の問題を取り上げてきたので、ついでに、同法案の問題点をもう一点取り上げたい。自民党案の109条にかかわるところだ。
同条は、
【組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘し、その投票をし又はしないことの報酬として、金銭若しくは憲法改正案に対する賛成若しくは反対の投票をし若しくはしないことに影響を与えるに足りる物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与をし、若しくはその供与の申込み若しくは約束をし、又は憲法改正案に対する賛成若しくは反対の投票をし若しくはしないことに影響を与えるに足りる供応接待をし、若しくはその申込み若しくは約束をしたとき】、
【組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘し、その投票をし又はしないことの報酬として、その者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないことに影響を与えるに足りる誘導をしたとき】
又は、【前二号に掲げる行為をさせる目的をもって国民投票運動をする者に対し金銭若しくは物品の交付をし、若しくはその交付の申込み若しくは約束をし、又は国民投票運動をする者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき】には、
【三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する】としている。
その後、民主党への妥協として、罰則規定はなくなったが、依然として、禁止規定は残るため、懲罰の対象となりうるという。つまり、君が代斉唱を拒否した場合に不利益処分が下されているのと同様の扱いを受けるわけだ。
この規定についてどう考えることができるだろうか。選挙の実態から考えると、企業による会社ぐるみ選挙(会社による政治献金、従業員に対する投票指示)の弊害の方が、組合活動による投票指示よりも問題が大きいのは明白だ。しかし、現実には、組合の選挙活動について(先進国ではまれなほど厳しい)公職選挙法違反で取り上げることはあっても、会社ぐるみ選挙は放置されたままだ。
国民投票法案のみ、会社ぐるみ投票を阻止する方向でも機能するとは思えず、やはり市民運動、組合運動つぶしに利用されることは間違いない。
これに関連して産経新聞の正論欄に日本大学教授・百地章氏の興味深い論考が掲載されている。
■■引用開始■■
与党修正案では裁判官、検察官、警察官などの国民投票運動まで自由とされ、国家公務員法や地方公務員法の定める「公務員の政治的行為の制限」も適用除外になった。このため、国民投票運動という名の政治活動は自由となり、自治労などの主導のもと、全国で公務員による大々的な憲法改正反対運動が繰り広げられる可能性も出てきた。また、日教組あたりの反対運動を考えれば、公務員や教育者の地位利用なども気になるところだが、これも禁止規定のみで罰則は削除されてしまった。ちなみに、公職選挙法には罰則も存在する。果たしてこれで国民投票の「公正性」は担保されるであろうか。
≪公正なルール作りを≫
「全体の奉仕者」たる公務員には、地位の特殊性と職務の公共性から「政治的中立性」が要請される。にもかかわらず、なぜ「政治的行為の制限」が適用除外とされてしまったのか。その理由としては選挙運動と違い、国民投票運動は原則として自由であるべきだなどといったことがあげられる。
確かに国民投票は国民自身が直接「主権」を行使する極めて重要な機会である。しかし「主権の行使」とはいっても、それはむき出しの権力つまり法的な規制を一切受けない「憲法制定権力」の行使とは異なる。あくまで「憲法改正権」という憲法上認められた権限・権利の行使であるから、法的安定性や公正性を確保するために種々の法的制約が課せられる。それゆえ、主権の行使だから無制約な運動を認めよ、などということにはならない。
また、人物を選ぶ選挙と違い、国民投票運動では国の将来を見据えた国民の自由な議論が必要だから制約などすべきでないといった乱暴な意見もある。しかし、自由な議論を保障することと、真の自由を確保するために「公正なルール」を設定することとは別に矛盾しない。もし政治的に中立・公正であるべき公務員が「自由」の名の下に積極的に政治運動にかかわれば、行政の中立性は失われ、国民投票運動の公正性も著しく損なわれよう。それでも良いのか。
■■引用修了■■
権力側が109条によって何を規制しようとしているのか、透けて見える。
幸い、【安倍晋三首相(自民党総裁)は11日午前のNHK番組で、憲法改正手続きを定める国民投票法案について「(憲法記念日までの成立は)一つの象徴だと思うが、わたしはそんなにこだわらない」と述べ、5月3日までの成立に期待を表明した今月7日のインタビューでの発言を軌道修正した。これを受け与党は、同法案の月内の衆院通過を見送る方針を固めた】という(時事)。
この猶予期間を利用して、各党に電話をし、FAXをしましょう!
首相官邸FAX 03-3581-3883
自民党FAX 03-5511-8855
民主党FAX 03-3595-0090
公明党FAX 03-3353-9746
延期されたとはいえ、事態はまだまだ流動的で(産経のこちらの記事参照)油断したら、寝たふりをやめて一気に成立させるかもしれない。頑張りましょう!
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。転載、引用大歓迎です。なお、安倍辞任までの間、字数が許す限り、タイトルに安倍辞任要求を盛り込むようにしています(ここ←参照下さい)。また、憲法改正国民投票法案の最大の問題点を広めたいと考えています(ここ←参照)。ぜひ、情報流通にお力を!
同条は、
【組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘し、その投票をし又はしないことの報酬として、金銭若しくは憲法改正案に対する賛成若しくは反対の投票をし若しくはしないことに影響を与えるに足りる物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与をし、若しくはその供与の申込み若しくは約束をし、又は憲法改正案に対する賛成若しくは反対の投票をし若しくはしないことに影響を与えるに足りる供応接待をし、若しくはその申込み若しくは約束をしたとき】、
【組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘し、その投票をし又はしないことの報酬として、その者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないことに影響を与えるに足りる誘導をしたとき】
又は、【前二号に掲げる行為をさせる目的をもって国民投票運動をする者に対し金銭若しくは物品の交付をし、若しくはその交付の申込み若しくは約束をし、又は国民投票運動をする者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき】には、
【三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する】としている。
その後、民主党への妥協として、罰則規定はなくなったが、依然として、禁止規定は残るため、懲罰の対象となりうるという。つまり、君が代斉唱を拒否した場合に不利益処分が下されているのと同様の扱いを受けるわけだ。
この規定についてどう考えることができるだろうか。選挙の実態から考えると、企業による会社ぐるみ選挙(会社による政治献金、従業員に対する投票指示)の弊害の方が、組合活動による投票指示よりも問題が大きいのは明白だ。しかし、現実には、組合の選挙活動について(先進国ではまれなほど厳しい)公職選挙法違反で取り上げることはあっても、会社ぐるみ選挙は放置されたままだ。
国民投票法案のみ、会社ぐるみ投票を阻止する方向でも機能するとは思えず、やはり市民運動、組合運動つぶしに利用されることは間違いない。
これに関連して産経新聞の正論欄に日本大学教授・百地章氏の興味深い論考が掲載されている。
■■引用開始■■
与党修正案では裁判官、検察官、警察官などの国民投票運動まで自由とされ、国家公務員法や地方公務員法の定める「公務員の政治的行為の制限」も適用除外になった。このため、国民投票運動という名の政治活動は自由となり、自治労などの主導のもと、全国で公務員による大々的な憲法改正反対運動が繰り広げられる可能性も出てきた。また、日教組あたりの反対運動を考えれば、公務員や教育者の地位利用なども気になるところだが、これも禁止規定のみで罰則は削除されてしまった。ちなみに、公職選挙法には罰則も存在する。果たしてこれで国民投票の「公正性」は担保されるであろうか。
≪公正なルール作りを≫
「全体の奉仕者」たる公務員には、地位の特殊性と職務の公共性から「政治的中立性」が要請される。にもかかわらず、なぜ「政治的行為の制限」が適用除外とされてしまったのか。その理由としては選挙運動と違い、国民投票運動は原則として自由であるべきだなどといったことがあげられる。
確かに国民投票は国民自身が直接「主権」を行使する極めて重要な機会である。しかし「主権の行使」とはいっても、それはむき出しの権力つまり法的な規制を一切受けない「憲法制定権力」の行使とは異なる。あくまで「憲法改正権」という憲法上認められた権限・権利の行使であるから、法的安定性や公正性を確保するために種々の法的制約が課せられる。それゆえ、主権の行使だから無制約な運動を認めよ、などということにはならない。
また、人物を選ぶ選挙と違い、国民投票運動では国の将来を見据えた国民の自由な議論が必要だから制約などすべきでないといった乱暴な意見もある。しかし、自由な議論を保障することと、真の自由を確保するために「公正なルール」を設定することとは別に矛盾しない。もし政治的に中立・公正であるべき公務員が「自由」の名の下に積極的に政治運動にかかわれば、行政の中立性は失われ、国民投票運動の公正性も著しく損なわれよう。それでも良いのか。
■■引用修了■■
権力側が109条によって何を規制しようとしているのか、透けて見える。
幸い、【安倍晋三首相(自民党総裁)は11日午前のNHK番組で、憲法改正手続きを定める国民投票法案について「(憲法記念日までの成立は)一つの象徴だと思うが、わたしはそんなにこだわらない」と述べ、5月3日までの成立に期待を表明した今月7日のインタビューでの発言を軌道修正した。これを受け与党は、同法案の月内の衆院通過を見送る方針を固めた】という(時事)。
この猶予期間を利用して、各党に電話をし、FAXをしましょう!
首相官邸FAX 03-3581-3883
自民党FAX 03-5511-8855
民主党FAX 03-3595-0090
公明党FAX 03-3353-9746
延期されたとはいえ、事態はまだまだ流動的で(産経のこちらの記事参照)油断したら、寝たふりをやめて一気に成立させるかもしれない。頑張りましょう!
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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