ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
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勧進帳柄じゅばん

2011-06-15 02:44:49 | 着物・古布

 

いわずと知れた「弁慶・義経」の有名なお芝居ですね。

このじゅばんの絵の中には「勧進帳」の本も描かれていますので、有名な「勧進帳」柄じゅばん、

とわかりますが、たとえばこの「本」がなくても、これは「勧進帳」柄、という説明になるでしょう。

それは、あまりにも有名な衣装だからですね。

 

山伏というのは、修験者のことですが、衣装や持ち物には決まりごとがたくさんあります。

衣装は歌舞伎の場合はお芝居ですから、立派なものを使い見栄えもきれいなようにそのままですが、

実際にはそれを着て、日本中の霊場、霊山を踏破するわけですから素材は麻で、縛ったりたくし上げたり、

また手甲脚胖などをちゃんとつけます。衣装は「篠懸(すずかけ)」というきれいな名前の法衣です。

「旅の衣はすずかけのお~」ですね。

 

山伏というと、思いつくのはオデコの上に乗っけてる黒いとんがった小さいもの。

あれは「頭襟(ときん)」といって布で作って漆で固めてあり、大日如来の宝冠を表すといわれています。

柄にもありました。これです。ちっちゃい帽子…ではなく「冠」なんですね。

 

   

  

「笠」がありますね。こちらです。名前は「斑蓋(はんがい)」、檜笠です。

長旅に使うものですから、丈夫に網代編にしたり漆をかけたものなど。

お芝居では、義経だけが顔を見られないように、これをかぶっています。

 

   

 

斑蓋の下にあるのが「金剛杖」、これはわかりますね。横にあるのは扇子ですが

「中啓」と呼ばれるたたんでも先が広がっているもの。 

今使われている扇子の親骨(両端の幅の広いところ)は中側に向けて反らせてありますから、

たたむと上が細くなってきれいにしまります。

中啓は、親骨が、逆に外に反らせてあるのでたたんでも上が開くわけです。

儀式用で、実際には広げて使うことはなかったようです。今でもありますが、今のは開かないらしいですよ。

実際外側がこんなにそっくり返っていたら、開いたとき使いにくいですよね。

 

中啓のおまけ話、扇子は最初は紙が片側でした。「日本産」です。珍しくもこちらから中国に伝わりましたが、

あちらで二枚の紙で骨をはさむ「両面紙」の扇子が考案され、またまた逆輸入したものです 。

また、扇子のことを「末広」と言いますね。

「要(かなめ)」でまとまったものが、広げると開くから「末が開く」で「末広」

日本では「将来の出世」などとかけられてめでたいものとされています。

でも、実際に「末広」と呼ばれていたのはこの「中啓」で、扇子の紙が増えた分厚みが出て上が広がるので

それを最初から広げたように作ったからです。今の扇子のように閉じたとき上が広がらないものは

「沈折(しずめおり)」といいました。

 

お次はほら貝、これは山中で修行するため、仲間同士の連絡に使われたもの。

その右にあるのは「笈(おい)」、または「笈箱」今で言うところのリュック、あ、今はデイパック…ですかね。

 

   

 

リュックではありますが、これに入れるのは替え下着や食料ではなく、あくまで「修行のためのもの」

ご本尊、法具、経典などを入れて背負いました。木製のそのまま家具になりそうなつくりで、

相当重かったらしいです。これしょって山歩くだけで「修行」ですよね。

上に載っているのが、弁慶が勧進帳として読み上げるのに使った白紙の巻物。

そして、こちらが「本」の部分アップですが、中ほどにに「巻物一巻取り出し…」と書いてありますね。

勧進というのは、お寺の普請や布教のための費用を寄付してもらうために回ることです。

勧進帳はその「経緯や記録」のこと。関守の富樫が、山伏一行を「義経主従」と疑い、

勧進ならば勧進帳を読み上げよと命じたことで、弁慶が、実は何も書いていない白紙の巻物を広げ、

いかにも書いてあるように朗々と読み上げる…これが「勧進帳読み上げ」という名場面ですね。

 

   

 

こちらは「弁慶」「富樫」の衣装と烏帽子ですね。弁慶格子、好きですー。

 

   

 

富樫は、義経一行と察するものの最後は義経主従のひたむきさに心打たれて見逃すというわけです。

 

これで柄の中の「お道具」はおしまいですが、山伏の衣装のお話をもう少し。

山伏の装束で、「頭襟」についで目立つのは、あの毛糸のボンボンみたいな丸いもの。

アレばかり目立ちますが、実はアレが縫い付けてある細いベルトのようなものが、

お坊さんのかける「袈裟」にあたります。「結袈裟(ゆいげさ)」と言います。

修験者専用、といいますか特有のものです。ベルトのようなものは「九条袈裟」をたたんだもの。

 

袈裟というのは元々は「お釈迦さまの衣」、苦行の上悟りを開かれたお釈迦様の衣は、

すでにツギハギであったところから、これを模して袈裟は最初から布を継ぎ合わせて作ります。

宗派によって違ったりしますのでややこしいのですが「九条袈裟」はいちばん大きいもの。

9枚パッチワークということですね。それを細くたたんであるわけです。

本来は、たとえばイスラムの礼拝のとき小さなじゅうたんを敷きますが、あれと同じ用途のもの。

いちばん大きいのは25枚の布を並べたそうで、やたらデカイ…で「大袈裟」と呼ばれ

「おおげさだぁ」…の「おおげさ」の語源です。

あのボンボンみたいなのはいわゆる「菊綴じ」、平安貴族の水干などにもついていますが、

絹の紐の房をほぐして広げ、刈り込んだもの。菊の花のようなので「菊綴じ」といわれます。

結袈裟には、体にかけたとき前に4個、背中に2個のボンボンが見えます。この6個は「六波羅蜜」のこと。

ほーらまた仏教用語、六波羅蜜寺なんてお寺もありますね。

えーと、要するに仏を目指す人が修行しなければならないことの項目6個、ってことらしいです。

すんごい投げやりですが、なんたって仏教用語は、意味を知ろうとすると頭バクハツしそうになりますので…。

 

おまけ話…植物に「鈴懸」という樹木があります。洋名はプラタナスですが、日本には明治ごろに入ってきたそうです。

この実の形がボンボン、いや菊綴じそっくりなんですね。写真見つけましたこちらです

私も、そっくりという話は知っていましたが、実物は見たことなかったので、今回写真を見て「ほんとだー」と思いました。

で、篠懸の菊綴じのようなボンボンの実をつけているので、和名では「鈴懸」と命名された…

「篠」が「鈴」になったのは、鈴が丸いところからといわれています。

このあたりの感性というか、センスというか、日本人っていいよなぁ…。 

で、なんで「山伏の法衣をすずかけのころもというのか…」すみません、知らないんですー。 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (陽花)
2011-06-15 18:01:03
山伏は時折テレビで見ますが、だいたいの
格好だけで、ひとつずつの意味も名前も
知りませんでした。
あぁそうなんだと楽しく読ませて頂きました。
菊綴じってお数珠についていますね。
何にでもいわれがあるんですね。
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Unknown (とんぼ)
2011-06-16 13:31:07
陽花様

あの菊綴じを「ボンボン」っていって母にしかられました。
母は「梵天」と言ってたんです。
そういう意味もあるんだそうで…。
いろいろおもしろいものですね。
返信する
Unknown (通りすがりの粋がり屋)
2015-01-09 14:40:14
お古いところに失礼します…。

この本は「勧進帳」そのものではなく、長唄「勧進帳」の唄本ですね。 釈迦に説法のようなコメントご免なさいまし。。。

それにしても 粋で洒落た柄行きですねぇ… 当節我ら男どもが楽しめるものがなかなか探せません。
返信する
Unknown (とんぼ)
2015-01-09 20:59:50
通りすがりの粋がり屋様

はい、そうです。
ここにおいでになるかたは、お芝居好きや、
長唄三味線を習っておられる方も多いので、
唄本と書かなくてもわかるかなという思い込みで…。
すみませんでした。

男性は女性よりお召しになりませんから、
古いものも消えてゆくばかり。
でてくるものは万人向けの、無難なものだけです。
寂しい限りですね。
女ものより粋なもの、大胆なものがたくさんあるのに…。
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