2007 No.12 10/7~10/8
作者:三浦綾子(新潮文庫)
評価・・・★★★★☆ 4.5
自分の身を犠牲にして乗客の命を救った鉄道職員・・・
明治時代に実際に起こった事故をモデルにして描かれた作品です。
あらすじだけを見ると、主人公はきっと素晴らしい人格者なんだろうな、と思っていたのですが、この作品の主人公は実は結構ひとに影響を受けやすいタイプでした。しかも、最初はキリスト教を嫌っていて、子ども時代には将来は僧侶になることを夢見ているし。
そんな人間でも、いろいろな出会いを経て信仰に目覚めたとき、こうも変わることができるのか、と驚きました。
でも、一番印象に残ったのは、主人公の死後に事故の現場を訪れた彼の婚約者が線路に打ち伏せて泣くシーンでした。いくら皆が貴い犠牲だったと讃えてくれたとしても、愛する人を失った悲しみに変わりはないのです・・・彼は立派な人でしたと涙をこらえて微笑むラストではなく、一時でも悲しみに思いきり身を委ねるラストで良かった。美談で終わらせられるよりも、こういった終わらせ方だからこそ、余計感動が深まったという感じがしました。
信仰が一つのテーマではありますが、押しつけがましさを感じない描写なので、それほど抵抗なく読めました。