Da!Da!!Da!!! / ザ・コレクターズ
熊木杏里(Kumaki Anri) - [私は私をあとにして]
『フォールインタヌキ』歌・松浦湊
ふと思うところあり、二年ほど前ここに載せた話、再掲載いたします。
暇があるとき読んでください。(少し変えました)
草食系な君
「大丈夫かしら」
とカミさんが私の部屋に入ってきて誰ともなしにため息をつきながら言った。
突然言い出したので自分のことを言われたと思った私は少々怒気を孕んだ口調で「何がさ!」と言った。
「何怒っているの?」
たった今、私の存在に気づいたかのようにカミさんは私のほうを見た。
「いや、俺のこと大丈夫かって今言ったろ」
カミさんは心外だという顔をして「違うわよ」と言う。
「じゃあ、何が大丈夫かしら、なんだ」
「今度の夏休み、家に帰ってくるでしょ」
「ああ、我が長男殿のことか」
「そう、その長男殿」
「で、何を心配しているんだ?」
「帰ってくる前に東京の友達のアパートに泊まってくるんですって・・・」
ああ、家に帰ってくる前に高校時代の友人と遊んでくるっていうことか・・・・、私は思い、それのどこが悪いのか奇異に感じた。
「いいじゃないか、それくらい。相手が迷惑でなければいいだろう」
私がそう言うと彼女はフーと一息つき、「それがね・・・」と言った。
「それが?」
「・・・・女の子のところなのよ」
女の子と聞いて私は少しばかり驚いた。驚いたがそれは長男に恋人らしき女の子がいたことに驚いたのであり、決していやらしい想像をした訳ではない。もう21なのだしそれ位当たり前だろうと思った。
「いいんじゃないか、彼ももう21だし責任の取り方も分かっているだろうしさ」
私がそう脳天気に答えると、カミさんは「違うのよ」と首を振った。
「違う?」
「その女の子とは友達なんですって。そんな関係じゃないって言うのよ」
「だって、女の子のところに泊まるってことは、あれだろ、いわゆるあれな関係だろ?」
「それがあれな関係じゃないのよねえ・・・聞く限りじゃ」
私は何が何やら分からなくなっていた。
私は女と男は友人関係にはなれないと思っている。どうしても男と女の間には性的なものが付きまとう。友人関係になるなんて到底無理だ。
「最近は、みんなそうらしいのよねえ、草食系男子っていうのかしら、みんな平気で女の子のところに泊まったりその逆もあったり・・・、だからって何も変な関係になったりしないんですって」
カミさんが説明するのを聞いて、私はますます不安になってきた。
まさか・・・。
「・・・・・まさか、女の子に興味がないんじゃ」
「そう、それなのよね、私が心配しているのは・・。そのうちカミングアウトしたりして」
カミさんのその言葉で私はカウンターパンチを喰らい、そこで会話は途切れた。
重いパンチを受けた私は動揺していた。
カミさんは話すだけ話したらすっきりしたのか「ま、その時はその時よねえ」と言って部屋を出て行ってしまった。
それから私はよろよろとPCに向かい、”草食系男子”とキーボードに打ち込み、検索をかけた。
ウィキによると、草食系男子とは、「新世代の優しい男性のことで、異性をがつがつと求める肉食系ではない。異性と肩を並べて優しく草を食べることを願う男性のこと」らしい。
何だか分かったような分からないような説明だ。ただ、世の中の若い男どもはそういう傾向にあるようだ。長男だけがそうでないことだけは分かった。安心した。うん、うん、大丈夫だ。彼は決して女の子に興味がないわけではない。
落ち着いた私はタバコを胸ポケットから取り出し、一本取り出すと口にくわえ火をつけた。
煙を大きく吸い込み、鼻から出した。
そういえば俺、娘が欲しかったんだよな。
ふとそんなこと思い出したら妄想が膨らんだ。
口紅、ファンデーションに眉を描いて、・・・・髪は長いほうがいいかな。
長男の顔をベースに考えてみた。
長男はもともと女顔なので、想像は容易である。
・・・・うん、わるくはないかも。綺麗系の女の子だ。
ちょっとだけ楽しくなった。
あとは親しい人、親戚とかにはカミングアウトしてだな・・・。
と物語を進めようとしたところで気が付いた。
彼は身長が186センチもあり、意外と細マッチョである。それに「あそこ」はどうしたらいいのだろう。手術か?
そうだ、タイランドに行こう!
いつのまにか長くなったタバコの灰に気付いて、慌てて口からタバコを離したら、PCのキーボードに灰の雪を降らせてしまった。
あちゃー、バカだ、なんてこった。
そう、馬鹿である。
バカバカバカ。
熊木杏里(Kumaki Anri) - [私は私をあとにして]
『フォールインタヌキ』歌・松浦湊
ふと思うところあり、二年ほど前ここに載せた話、再掲載いたします。
暇があるとき読んでください。(少し変えました)
草食系な君
「大丈夫かしら」
とカミさんが私の部屋に入ってきて誰ともなしにため息をつきながら言った。
突然言い出したので自分のことを言われたと思った私は少々怒気を孕んだ口調で「何がさ!」と言った。
「何怒っているの?」
たった今、私の存在に気づいたかのようにカミさんは私のほうを見た。
「いや、俺のこと大丈夫かって今言ったろ」
カミさんは心外だという顔をして「違うわよ」と言う。
「じゃあ、何が大丈夫かしら、なんだ」
「今度の夏休み、家に帰ってくるでしょ」
「ああ、我が長男殿のことか」
「そう、その長男殿」
「で、何を心配しているんだ?」
「帰ってくる前に東京の友達のアパートに泊まってくるんですって・・・」
ああ、家に帰ってくる前に高校時代の友人と遊んでくるっていうことか・・・・、私は思い、それのどこが悪いのか奇異に感じた。
「いいじゃないか、それくらい。相手が迷惑でなければいいだろう」
私がそう言うと彼女はフーと一息つき、「それがね・・・」と言った。
「それが?」
「・・・・女の子のところなのよ」
女の子と聞いて私は少しばかり驚いた。驚いたがそれは長男に恋人らしき女の子がいたことに驚いたのであり、決していやらしい想像をした訳ではない。もう21なのだしそれ位当たり前だろうと思った。
「いいんじゃないか、彼ももう21だし責任の取り方も分かっているだろうしさ」
私がそう脳天気に答えると、カミさんは「違うのよ」と首を振った。
「違う?」
「その女の子とは友達なんですって。そんな関係じゃないって言うのよ」
「だって、女の子のところに泊まるってことは、あれだろ、いわゆるあれな関係だろ?」
「それがあれな関係じゃないのよねえ・・・聞く限りじゃ」
私は何が何やら分からなくなっていた。
私は女と男は友人関係にはなれないと思っている。どうしても男と女の間には性的なものが付きまとう。友人関係になるなんて到底無理だ。
「最近は、みんなそうらしいのよねえ、草食系男子っていうのかしら、みんな平気で女の子のところに泊まったりその逆もあったり・・・、だからって何も変な関係になったりしないんですって」
カミさんが説明するのを聞いて、私はますます不安になってきた。
まさか・・・。
「・・・・・まさか、女の子に興味がないんじゃ」
「そう、それなのよね、私が心配しているのは・・。そのうちカミングアウトしたりして」
カミさんのその言葉で私はカウンターパンチを喰らい、そこで会話は途切れた。
重いパンチを受けた私は動揺していた。
カミさんは話すだけ話したらすっきりしたのか「ま、その時はその時よねえ」と言って部屋を出て行ってしまった。
それから私はよろよろとPCに向かい、”草食系男子”とキーボードに打ち込み、検索をかけた。
ウィキによると、草食系男子とは、「新世代の優しい男性のことで、異性をがつがつと求める肉食系ではない。異性と肩を並べて優しく草を食べることを願う男性のこと」らしい。
何だか分かったような分からないような説明だ。ただ、世の中の若い男どもはそういう傾向にあるようだ。長男だけがそうでないことだけは分かった。安心した。うん、うん、大丈夫だ。彼は決して女の子に興味がないわけではない。
落ち着いた私はタバコを胸ポケットから取り出し、一本取り出すと口にくわえ火をつけた。
煙を大きく吸い込み、鼻から出した。
そういえば俺、娘が欲しかったんだよな。
ふとそんなこと思い出したら妄想が膨らんだ。
口紅、ファンデーションに眉を描いて、・・・・髪は長いほうがいいかな。
長男の顔をベースに考えてみた。
長男はもともと女顔なので、想像は容易である。
・・・・うん、わるくはないかも。綺麗系の女の子だ。
ちょっとだけ楽しくなった。
あとは親しい人、親戚とかにはカミングアウトしてだな・・・。
と物語を進めようとしたところで気が付いた。
彼は身長が186センチもあり、意外と細マッチョである。それに「あそこ」はどうしたらいいのだろう。手術か?
そうだ、タイランドに行こう!
いつのまにか長くなったタバコの灰に気付いて、慌てて口からタバコを離したら、PCのキーボードに灰の雪を降らせてしまった。
あちゃー、バカだ、なんてこった。
そう、馬鹿である。
バカバカバカ。