とかくに人の世は・・・

智に働いてみたり情に棹さしてみたりしながら
思いついたことや感じたことを徒然に記します 
  nob

いたりきたり

2006年03月26日 | 寄席芸
「何か飼うてんの?」
「うん、いや別に何ちゅうことないけど、まああの、飼うてないことはないけど」
「どんなもん飼うてんのん?」
「今、うちにおるのん?あのね、一匹、“いたりきたり”とね。もう一匹は“でたりはいったり”」

 桂枝雀さん作の落語「いたりきたり」の冒頭です。出たり入ったりする“いたりきたり”、行ったり来たりする“でたりはいったり”、それから“のらりくらり”“ねたりおきたり”というペットを飼っている男とその友人の会話で噺が構成されています。
 
 もちろん、この噺に出てくる『ペット』は想像上のものです。“いたりきたり”と“でたりはいったり”はどうも哺乳類のようです。枝雀さんによると餌は“とったりみたり”だそうです。
“のらりくらり”と“ねたりおきたり”は水中生活をしている腔腸動物のようです。餌は“くたりくわなんだり”。
 
 少々この世界へ入るまでは戸惑いを隠せませんが、いったん足を踏み込むとのめり込んでしまいます。
 この飼い主の男は、これらのペット達を見て心を落ち着かせていると友人に説明しています。忙しそうに行ったり来たりしている“でたりはいったり”に人間世界のビジネスマンの姿を見たり、出たり入ったりしている“いたりきたり”は人間の自己中心的な考えを写していると言います。
“のらりくらり”と“ねたりおきたり”には宗教的、哲学的な一面が見え隠れすると言っています。

 もともと落語は「醒酔笑」を著した安楽庵策伝和尚に代表されるように仏法を説く滑稽話がルーツとされています。そんなことから考えると落語というものが生まれてきた源流に還ったのではないかと思われる噺です。

 この噺、他に比べて笑いの少ないものですが、なんとも心持ちのエエ、ほのぼのとした秀作です。聴き終わったあとには思わず「南無阿弥陀仏」と口から出てしまいそうになりました。


この噺はちくま文庫「桂枝雀 爆笑コレクション4」に収録されています。
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