プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 梓沢要「百枚の定家 上下」

2023年04月21日 | ◇読んだ本の感想。
文庫版は上下巻。合計1000ページ。
……あのなあ。こんなん、――書きすぎやねん。

素直にいって書きすぎですよ。書きたい人なんだろうなあ。
まあ書きすぎの部分もそこまでひどくはないが……
しかしこの内容で4割減らして完成させてれば、話はすっきりするし、
読み手は読みやすくなって有難いし、いいとこづくめな気がする。
書く方も楽。ということにはならないが。

知ってること。描写。考えたこと。思いついたこと。
これらの全てを書いてしまってる気がする。
書く人は、上記の総計が100だとしたら、20くらいまでで抑えておくのが
上品というかベストな気がする。まあ30くらいでもいいけれども。
でも本作は80超で詰め込んでるから。面白いんだけど、そこまで面白くならない。

すごく簡単な例で、
通りすがりの庭の描写で、「赤や黄やピンクのバラが咲いている」としたような
部分があった。ごめん、どこに書いてあったか忘れたので正確な文言は不明だけど。

これは主人公の視点から、通り過ぎる街並みを描写したところで、
目的地が少し高級なお屋敷エリアであることを述べるためのもの。
――が、それならばバラの花の色はいらんのや。

たとえばこれが主人公が訪ねた家の庭の話で、色とりどりのバラに意味があるのなら
そう書くのもいいけれども、単に通り過ぎる風景の一つにバラがあっただけなら、
色まで書く必要はない。こんなところまで並べるから全体がうるさくなってしまう。

この作者はこれでもか、と並べる趣味がある。
委員会の顔ぶれを十人以上も肩書付きで台詞として並べたり。そのために漢字ばっかりで
3、4行になってしまったりして、話が雑然とする。
複雑なら複雑でいいけど、雑然はいただけない。もったいない。

――まあそんなことは枝葉末節のことで、わざわざ言い立てるほどのことは
ないかもしれないけど。


※※※※※※※※※※※※


ただ、話の幹部分もすっきりしているとは言いかねる。
正直全部がわかったわけではなかった。これはわたしの理解力不足なので、
作者の落ち度とはいえないが。
でももっと削ってシンプルにした方が親切だし、小説として良くなると思うんだよなー。

本作は歴史ミステリのジャンル。
歴史ミステリは、わたしは歴史そのままと歴史創作と歴史モチーフがあると思っている。

歴史そのままは読者もまったく同じ材料で勝負できるもの。
邪馬台国論争でいうなら、魏志倭人伝だけの勝負。
それが新しい発掘物が発見されて、という話にするならば歴史創作。
歴史モチーフは、たとえば織田信長を探偵役にしたほぼフィクションのミステリ。

本作は歴史創作だと思う。
多分色紙の調査結果、特に決定打となった……なんだっけかな?
漉き返しじゃなくて……反故紙の利用で書かれていた文字の事実はないと思う。
ここは創作でしょ?
ここが事実だとしたらフィクションにならないもんね。

歴史創作ならばある程度の範囲で恣意的に話を作れるんだから、
もう少し単純な話にした方が印象深くなると思う。
定家の真筆についての話だけでけっこう込み入ったことになる上に、
そこに登場人物たちの込み入った関係性が絡むわけでしょ。
込み入って・込み入って・書きすぎ・となると、ほんとに雑然とするわ。

が、全体的にどっちかというと面白かったから、今後も読んで行くつもりではいる。
特に書いてくれる人がほとんどいない、奈良時代の話は楽しみにしている。
「書きすぎ」の難点がこの場合ハマって、いろんな知らないことを読ませて
くれるんじゃないかと期待している。


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