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帰って来た佐野史郎

トークイベント「写真と神話」2010年8月22日 島根県立美術館にて

今、美術館では佐野史郎写真展「あなたがいるから僕がいる」 りす写友会写真展「しゃしんわ」「リメンバーしまね」的写真展 それに「奈良岡一高展」が行われている。

トークの出演者は佐野史郎と作家の柴崎友香、[りす」編集者の藤本智士の3人。

佐野史郎といえば1992年のTVドラマ「ずっとあなたが好きだった」を思い出す。その年の流行語「冬彦さん」は、マザコン男性の代名詞になった。顔をゆがめ奇声を発するかれの怪演は迫力満点だった。

最近の「レイルウェイズ」では一畑電鉄社員を演じ、出雲弁が堂に入っていた。が、一番印象深いのは、何年か前の明石家さんまの「恋のから騒ぎ」に出ていた彼である。これは素人女性20名ばかりが恋の経験を話す番組だが、制作者は、若い女性の横暴さや軽薄さを実証するような誇張したバカバカしい話を期待しているらしい。毎回1人だけの男性ゲストの反応はと言えば、大抵あまりのことに呆れて、無力な笑いを漏らすのがせいぜいである。ところが佐野史郎の場合は違った。横を向いて「さんまさん、こういうのを見ていて腹が立ちませんか」と言ったのだ。同じB型で1955年生まれと言うことも手伝ってか、彼の発言は、場の雰囲気にのまれない、クールで落着いた「つっこみ」であり、序に言えば出雲人らしい。またそれは、私の長年のもやもやを解消してくれた一言であり、これで、私は彼を見直した。

さて今回のトークは、「りす写友会」のメンバー3人(30代の大阪人2人と佐野史郎)が出ている。馴初めは、佐野がウディ・アレンの「タロットカード殺人事件」を見た時、その京都シネマの隣でたまたま別の催しを開いていた柴崎さんに声を掛けられたことだとか。今の若者には、昔の日本を懐古するような傾向が一部にあるそうだが、その好例が柴崎さんである。彼女は古道具屋で、二束三文で売っている家族写真とか卒業記念アルバムを買ってきて、つくづくと眺めて想像に耽るのが趣味だと言う。また藤本氏はペットボトルに替り、水筒を流行らせたという。かれらが知り合ったきっかけなどをこもごも語るのを聞いていると、まるで大学のサークルの雰囲気で、若さの持つ流動性が感じられる。若い頃もそうだったが、大阪の若者たちの喋りの輪に入った時の地方出身者の戸惑いを久し振りに思い出し、あとに面白いけれど疲れたなあという感じが残った。或いは若さとは人を疲れさせるものなのだろうか。先日77歳の細江英公氏に感じたのとは対照的な何かだ。

佐野史郎は、若い日故郷の松江をも、開業医の家業をも捨てるかのように、まっしぐらに上京し役者の道に飛び込んだ。今は50代、少し前からしきりとルーツを探っている。だが一方では、盆に帰省して親戚と会うのも面倒だ、自分は墓も供養もいらぬ、死んだら直ぐ忘れてほしいと言う気持もあるそうだ。自分の中に先祖が生きていることを認めつつ、過去や周囲から全く切り離されて1人きりでいたいと言う気持、それは誰しも持つ2面ではないだろうか。
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