1978年 原作 松本清張 制作 石井ふく子 演出 柳井満
出演 吉永小百合 荻島真一 森本レオ 佐野浅夫 レンタルDVDで鑑賞
原作は1955年、映画化は1958年、その後50年間に10回以上ドラマ化されたのは原作の魅力による所が大きいのだろう。地方から上京した青年が、夢もかなわず、貧乏と病気の苦痛から、絶望して破れかぶれに強盗を働き、お尋ね者として逃走中に、昔の恋人を婚家に訪ねるという筋が、分りやすく万人に訴えるからではないのだろうか。
このうち私が見たのは58年の映画(野村芳太郎監督、大木実、高峰秀子、宮口精二、木村功)と91年(田原正彦&大竹しのぶ)02年(ビートたけし)と今回のTVドラマだが、最初の映画に勝るものは見たことがない。夜汽車の長旅とか、佐賀の町の市民生活、汗水たらして歩く刑事、すべてがまだ近い過去で、リアルに表現できたのも勝因の一つか。
今回は、新幹線で一瞬に着いてしまい、道中のシーンがない。刑事もコンビでなく、荻島ひとり。しかも、この吉永小百合、手配写真は「キューポラのある街」の女学生、現在は「ミセス」の表紙の上品な奥様風。その上、張込み中の刑事を恋人と勘違いして逢引の場所を指示するメモを託すなんて、信じられぬおっちょこちょいぶり。しかし、次のシーンでは実際恋人と会っている、では、どうやって連絡したのか?
犯人(恋人)森本レオは出番は少ないが写真の顔だけでなかなか良い味を出している。もっとも「マンガ家を目指して上京」と言えば大分あとの時代に思えるし「貧乏のため日雇労働をしたり売血したり、胸を病む」とは戦後すぐという感じだし、どうもちぐはぐ。
それやこれやで、全体としてやっつけ仕事に見えて来る。しかも19.9%の高視聴率だったと言うのは、他の番組がつまらないからで、TV全体がすでにそこまで品質が下落していたか。吉永小百合は、こういう脚本を受けて唯々諾々と「よろめき」ドラマを演じるような女優であるはずは無いが、ひょっとしたら原作も映画も見ていなかったか。高峰秀子の、後妻としての生活の疲れを露わにした絶品の演技は、50年代、邦画の高潮期だからこそ可能だったのかも。