映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
【映画】パンズ・ラビリンス
2006年 スペイン 119分 監督 ギレルモ・デル・トロ
出演 イバナ・バケロ セルジ・ロペス 鑑賞@島根県民会館
タイトルの意味は「パン(牧羊神)の迷宮」。
時代は1944年内戦中のスペインで主人公は10歳くらいの少女オフェリアだ。母の再婚相手の住いに身を寄せるが、それがファシストの極悪非道な大尉で、少女は日頃から愛読するおとぎ話の世界に入って現実を逃避する。映画は現実と空想のふたつの世界を行き来する。空想の世界も現実に劣らず不気味で恐怖に満ちている。
これはヒューマニズムからは最も遠く、嗜虐性(サディズム)を満足すべく作られたグロテスクな映画だ。キリスト教的救いも最後に見られるが、同じキリスト教でもメキシコやスペインの血まみれな十字架を連想させる。
一見目立つのは大尉だが、根本にあるのは監督の嗜虐性だ。作品の隅々までかれのその好みが行き渡っている。意図的に見る人を不愉快にさせるように作っているので、映画館で2時間も椅子に座っているのは相当の苦痛である。が、何故かつい最後まで見てしまったのは、この監督の並々ならぬ技量のせいか。
ポスターや予告編で予想したように、少女はこの世のものとも思えない美しさと可憐さの持ち主だが、周囲の暴力と不気味さの中でそれが一層際立つ。
映画のあとで、無料コーヒー&ケーキ付き「アフターサロン」に誘われた。お馴染みのS氏と美術館員女性との対談。ロビーにはギレルモ監督による絵コンテ(コピー)の展示もあり、手製の解説書も配布と言う、至れり尽くせりだった。
対談後に放映されたメイキングビデオでは、悪玉と善玉を同じ若いハンサムな男優が着ぐるみの中で演じていることとか、受身で古風なメルセデスを演じるのが自立心のある現代的な女優だったことなどがわかる。オフェリア役のイバナも、はきはき喋る明るく賢い少女のようだった。お化け屋敷の建設のようすを見せたり、お化けが素顔を出し自己紹介したらさもありなん、恐怖は去る。
このアフターサロンの試みは解毒剤のような作用をして、おかげで、映画から受けたショックが大分やわらいだ。また映画に酔いしれ満足した人にしても、背景にある西欧の歴史文化とか、数々のシンボルを知るのは有益だったろう。
この監督の映画はこれが初めてだった。ヒチコックに心酔しているという。そういえば、直接的でなく仄めかしで恐怖を与える方法など、似ているかもしれない。かれは、幼時の自分は主人公にそっくりの心理状態であった(今の外見からは到底信じられない)と言い、血も涙もない残酷な将校を「強い男性だ」と語っていることに、本性が垣間見える。
出演 イバナ・バケロ セルジ・ロペス 鑑賞@島根県民会館
タイトルの意味は「パン(牧羊神)の迷宮」。
時代は1944年内戦中のスペインで主人公は10歳くらいの少女オフェリアだ。母の再婚相手の住いに身を寄せるが、それがファシストの極悪非道な大尉で、少女は日頃から愛読するおとぎ話の世界に入って現実を逃避する。映画は現実と空想のふたつの世界を行き来する。空想の世界も現実に劣らず不気味で恐怖に満ちている。
これはヒューマニズムからは最も遠く、嗜虐性(サディズム)を満足すべく作られたグロテスクな映画だ。キリスト教的救いも最後に見られるが、同じキリスト教でもメキシコやスペインの血まみれな十字架を連想させる。
一見目立つのは大尉だが、根本にあるのは監督の嗜虐性だ。作品の隅々までかれのその好みが行き渡っている。意図的に見る人を不愉快にさせるように作っているので、映画館で2時間も椅子に座っているのは相当の苦痛である。が、何故かつい最後まで見てしまったのは、この監督の並々ならぬ技量のせいか。
ポスターや予告編で予想したように、少女はこの世のものとも思えない美しさと可憐さの持ち主だが、周囲の暴力と不気味さの中でそれが一層際立つ。
映画のあとで、無料コーヒー&ケーキ付き「アフターサロン」に誘われた。お馴染みのS氏と美術館員女性との対談。ロビーにはギレルモ監督による絵コンテ(コピー)の展示もあり、手製の解説書も配布と言う、至れり尽くせりだった。
対談後に放映されたメイキングビデオでは、悪玉と善玉を同じ若いハンサムな男優が着ぐるみの中で演じていることとか、受身で古風なメルセデスを演じるのが自立心のある現代的な女優だったことなどがわかる。オフェリア役のイバナも、はきはき喋る明るく賢い少女のようだった。お化け屋敷の建設のようすを見せたり、お化けが素顔を出し自己紹介したらさもありなん、恐怖は去る。
このアフターサロンの試みは解毒剤のような作用をして、おかげで、映画から受けたショックが大分やわらいだ。また映画に酔いしれ満足した人にしても、背景にある西欧の歴史文化とか、数々のシンボルを知るのは有益だったろう。
この監督の映画はこれが初めてだった。ヒチコックに心酔しているという。そういえば、直接的でなく仄めかしで恐怖を与える方法など、似ているかもしれない。かれは、幼時の自分は主人公にそっくりの心理状態であった(今の外見からは到底信じられない)と言い、血も涙もない残酷な将校を「強い男性だ」と語っていることに、本性が垣間見える。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
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本当の強さを知らない浅い人間かもしれませんね。
私には怯えてる人間にしか見えませんでしたから。
>嗜虐性(サディズム)を満足すべく作られたグロテスクな映画だ。
おっしゃるとおりかもしれません。他の作品をみても、サディズムを思わせる執拗さを感じます。
見たあとに、胸の奥に重石を載せられたような気持ちになりました。怒りでも不条理さでもなくて、なんなのかなと思ってましたが、…子供の逃避の世界に、しかも断末魔のときまでサディズムを持ち込んだラストだったからかもしれないですね。
普通の映画館上映ではなく、催しというスタイル?無料コーヒー&ケーキの付くアフターサロンだなんて、素敵ですね!! 解説も聞いてみたかったですが、
DVD特典での”メイキング”が時にはおっしゃるように、せっかく浸った架空の世界から現実に引き戻されるようで興ざめの場合もありますが、正にこのヒロインの少女の体験のようですよね・・生きてればこそですが。
自分とはまったく違った見方の貴重なご意見が聞けて面白かったですわ。 有難うございました(^^)
私は解毒剤が無かったのでかなり後味の悪い思いで劇場を後にしましたから(汗)
それでも、ダークな世界に魅了されたのも事実です。
JTさん、他にも見ていらっしゃるとのこと。映画制作の上で素晴しい力量だとは認めずにいられませんが、おっしゃるように何だか幼い人のような気がします。
マダムSさん、全く違った意見でしたか。私のばあいラテン的なものの許容範囲が小さいのが原因かもね。
ミチさん、ダークは嫌いではないのですが、表現がどうにも受け入れ難いです。
claudiacardinaleさん
確かに、アカデミー賞3部門を受賞しただけあって、美術的には、見るべきものがあり、女性のコメンテーターが言うには、少女、政府軍、反乱軍の服装の色が統一されているとか。そして、迷宮と迷路はどう違うかとか、調べればいくらでも、面白いことがでてきて、奥が深い映画のようですね。
返事遅くなってすいません。
御賛同いただきまして、ありがとうございます。
見ていて心の置きどころがなくなったような、おっしゃる通り、不愉快な気持ちもかもしだされました。
ほとんど、前知識なく、すごいんだって、くらいの評判で行ったので、覚悟も足りなかったのですが、監督どう考えても、性格悪そうな人ですよね。
ってここまで言っていいのかしら。
またどうぞよろしく。
いつも思うのですが見た後の感想は好いほうは言い易く、反対は言い難くありません?その結果、世論は大体いいほうに偏ってしまいますから「辛口」な感想も、皆バンバン言ってほしいですよね。日本人は礼儀上いいことばかり言う癖があるので、それ位でつりあいが取れるというもの。まあ、私のブログは後者の方が多いかな?あ、ギレルモ監督は「ひきがえる」の声を担当してるそうです。見かけといい、性格といい、ピッタリではないかしらね。