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薬局


  薬室に小閑ありて吾子らに分たむ菓子の袋貼りをり 

これは1951(昭和26)年の母の短歌である。
開業医の奥さんたちを対象に准看護婦短期養成講習が行われたそうだ。母は消毒薬の匂いが嫌いだと言い、後からは病院に近寄らないようにしていたが、当時は子供もまだ小さいし、看護婦は不足だしで止むを得ず手伝っていたらしい。

母39歳、子供は5人で2歳6歳8歳11歳12歳だった。終日子供にかまけているよりも外で働く方が気ばらしにはなるが、少し暇になると子供のことが気になる。母の人生の中では、忙しくも充実感があった時期ではなかろうか。(少なくともこの短歌から見る限り)

当時は薬のうち錠剤は少なく粉や液体が主で、棚には茶色の瓶がずらりと並んでいた。

胃炎にはビオフェルミンとヂアスターゼと重曹。
風邪にはアスピリンとサルチルサン。
咳にヒドロコデインと杏仁水(キョウニンスイ)。
休みの前など10日分の処方が幾つも出ると30枚の紙を手早く並べて
何人もが一斉に包むのは静かな戦争のようであった。
姉や私が助っ人に呼ばれるようになった。

私は消毒薬の匂いが好きでよく出入りし、ひところは時給をもらっていた。
上皿天秤、分銅やピンセット、大中小サイズの薬包紙、乳鉢と乳棒が並んだ、
明るく静かな薬局が、その周囲に漂う父の気配とともに、懐かしく思い出される。


「旅ーひとりと団体」18-1-4

「宙を飛ぶハサミ」8-10-15
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