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【映画】MILKミルク

2008年 米 2h08 監督 ガス・ヴァン・サント 出演 ショーン・ペン ジェイムズ・フランコ 鑑賞@島根県民会館
 
「ミルク」だから牛乳の映画かと思う人もいるだろうが、実は Harvey Milk(1930-1978)という人権活動家の名前だ。彼は1970年代のアメリカで、ゲイを含めた少数派の人権のために戦って、48歳の若さで殺された、ユダヤ人の両親を持つゲイである。

四半世紀前の1984年に作られた記録映画「ハーヴェイ・ミルクThe Times Of Harvey Milk」が、活動家としての彼を、関係者たちの口から語らせ、いわば外側から描いたものだとすると、こちらは彼の愛した若者達や彼を殺した元同僚などに焦点を当てることによって、内面を表現している。(なお、Harveyは辞書で見たら「ハーヴィー」と発音するのだそうだ。今まで20年間ずっと「ハーヴェイ」と言い習わしてたので、いまもハーヴェイが本名のような気がするが・・・・)

監督ガス・ヴァン・サント自身がゲイであり、「マイ・プライヴェート・アイダホ」や「マラノーチェ」を見れば少年が好きな感じなので、さもあろうかと思うが、ミルクのまわりの青少年が実に生き生きと描かれている。また殺人者ダン・ホワイトの内面にも光を当てている。

1978年11月27日のこの殺人事件について私が知ったのは外国にいた時で「市長とゲイ活動家の市議が市庁舎内で射殺される。」という新聞の記事では、何だか情痴事件のように受け取れた。しかし、1988年初めて映画を見たら、すっかり入れ込んでしまい、1年間で4回も見たほどだ。(渋谷のユーロスペース、池袋のスタジオ200、高円寺会館、中野武蔵野など)それは、見ると元気になれるからだった。

閑話休題、2008年の「ミルク」はアカデミー賞8部門にノミネートされ、ショーン・ペンは主演男優賞も取っているが、確かに力作で良心的ではあるが、それほどの価値があるとは思えない。当時アメリカに、ほかに見るべき映画が乏しかったというのが第一、次に人権擁護の映画であるから、これを選べば間違いないという姿勢。そして、NYと映画界はユダヤ人とゲイの勢力が強いこと、などの要素がからんできたのだろう。

ショーン・ペンが何故ミルクを演じたのかは知らないが、20年来私のイメージして来た本物のミルクの方がずっと男前だし、魅力があった。第一、ショーン・ペンのなよなよした仕草は何だろう?ミルクってやさしくはあっても力強く、明るい男ではなかったか?(私が美化しているのかも知れないが) その点、若者達はわざとらしさが無くて自然な演技。特にNY以来の恋人スコットを演じたジェイムズ・フランコはいい!ジェイムズ・ディーンを思い出させる笑顔が魅力的だ。

1984年のドキュメンタリーでは、怒りの群集が大暴動を起こす終りのシーンが素晴しかったが、こちらではその辺は意外とアッサリしていた。しかし、最初の方で、まだゲイが違法だった頃、警察車に追い込まれるゲイたちの哀れな映像は迫力があった。つまり、ガス・ヴァン・サントの作風からして、「勇ましい」より「情けない」場面の描写がうまい。皆を奮い立たせるような映画は撮らない。感動的な大規模デモの裏で誰がどう工作したか、を描いてしまう。ビジネスマン・活動家としてのミルクの計算高い面、私生活での寂しさなども描かざるを得ないのは、自身ゲイである監督が、ミルクを英雄ではない一人の孤独な人間として描きたかったのだろう。
見終わった時、力仕事のあとのようにグッタリと客席に沈み込み、しばらく立ち上がれなかった。
100点満点の80点
→ドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」10-1-7
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