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西條八十「女妖記」

中公文庫 2008年 

西條八十(1892-1970)の自伝小説集。初出は1960年中央公論社。
彼は大正の末に仏から帰り早稲田で仏文学を教えた。本作は西欧と日本、高雅と低俗、詩と歌謡、学識と世間知といった相反するものが混在している彼自身の内面を反映している。

彼の母は、美貌だが読み書きが出来なかった。そんな彼にとって女性とは、はかなく可憐な存在でしかない。それゆえ女性には弱くて、簡単に相手のペースにのり、妙な関係に引き込まれる。有名詩人だから文学志望の女性とか、花柳界の女性とか、寄ってくるものは多いが、相手が嘘をついたり、盗んだり、浮気したりすると、その悪さゆえさにますます魅力を感じるというのだから、女難を招く生まれつきとでも言うのか、自業自得だと言いたくなる。しかし一方では株に凝り、作詞で儲ける世俗的才能もタップリあるようだ。またそれで懐が潤っていないとこんな経験も無縁だろう。1936年のベルリンオリンピックでは特派されて詩を書いたが、ナチス政権はその後間もなく崩壊する。儚い夢に終ったからこそ、この時の五輪の幻を愛おしむというのも独特の感性である。

昔どこかで読んだ彼の詩。題は「山の母」

いつも見る夢 さびしい夢
月の夜ふけの 山の上
青いひかりに ぬれながら
うちの母さま ただひとり
草も生えない 岩山の
白い素足が いとしゅうて
泣いてまねけど もの言わず
風に揺れるは 影ばかり ...

→「父の肖像Ⅱ」2011-4-9
→「お菓子放浪記」2012-3-


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