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デパート 遠い思い出

私が子供のころ、デパートは街の中心だった。戦火をあびた鹿児島市では、
大半の人が住んでいた掘っ立て小屋のような家々の間で、冷暖房と昇降機を完備した白亜の殿堂「山形屋」は燦然とかがやいていた。

お金もないのに買い物好きな母は、子らを引き連れて、暮れになると
デパートに行く。私も本や雑誌、学用品、新しい衣服などを買ってもらい、
帰りは、館内の食堂か、そば屋や、お汁粉屋に寄る。
年に何度もない贅沢にうきうきした。

「山形屋」はまた、文化の中心でもあった。ある時、子供のための
「三つの歌」という催しがあり、買い物で気分が高揚していた母は、
私をけしかけて、申し込ませてしまう。私は、とりわけ声がよいとか、
歌がうまいとかいうわけではないが、七歳という年齢の割りには
多くの歌を知っていた。

年が明けて七草の日、出場者のうち、三つ全部歌えたのは唯二人、
わたしもその中に入っていて、表彰された。

ただ、私が「めえめえ児山羊」だと思った歌は、実は「カッコウ」だった。
伴奏者は、何回か鍵盤を叩いて注意を繰り返したが、私が聞く耳を持たず、
自信をもって歌い進むので、ついにあきらめて、
歌にピアノを合わせたそうだ。今の私にも通じる一面かも知れない。

そんな幼い日の思い出を呼び覚ますデパート山形屋は今も健在で、
空港バスの降車場の前で、大阪や東京から帰る私たちを迎えてくれる。

文章教室 課題「デパート」2005年12月20日作成 翌年1月18日返還

【八木先生評】
いまでも地方都市では、デパートが文化の中心、というところが多いようです。
大都市のデパートより、果たす役割は大きいのかもしれません。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (おキヨ)
2008-12-09 11:17:06
”めぇめぇ子ヤギが実ははカッコウだった。。。”
栴檀は双葉より香ばし(^o^)丿
こうと思ったらつき進むタイプですね。あっぱれ!


 
 
 
こんな友は持ちたくないです (Bianca)
2008-12-09 16:16:55
ピアニストの苦衷が今になって分ります。「無理が通れば道理引っ込む」「出すぎた杭は打たれない」?
 
 
 
思い込んだら・・・ (viva jiji)
2008-12-09 21:41:37
人ってなかなか修正きかないもんですよね。
この間も似たようなこと、思い出しました・・
「史上最大の作戦マーチ」と「クワイ河マーチ」の相違について家人と私、
あ~だこ~だと双方譲らずじまい。
いい大人がバカみたいです。(^^)

>「無理が通れば道理引っ込む」
>「出すぎた杭は打たれない」?

大好きです、こういう格言遊び。
状況を思い浮かべては1人ホクソ笑みつつ
“どうり”で“悔い”の多い人生なんだ~と。(笑)
 
 
 
vivajijiさま (Bianca)
2008-12-09 23:17:26
私の場合、出すぎて、スポッと抜けて、虚空に飛び出し、まだうちに帰れない杭というところ。でも「わが人生に悔いなし」とうそぶいてます。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2009-01-23 12:37:37
昨夜の「秘密のケンミンSHOW」で、県民が桜島と同じくらい自慢にしていると紹介され、歴史も1750年台からの老舗だと知り、読み返すと私の文ではまだまだ、すごさが出ていないと感じる。そういえば、私が7歳の頃、デパート食堂のウェイトレスになった知り合いのNさん、あたりで評判の美人だったなあとか、山下清展も、田中一村展も、ここで行われたとか・・・思い出はてなし。
 
 
 
Unknown (kazukokawamoto)
2009-01-23 14:04:56
鹿児島県のケンミンで山形屋のデバートが人気物だそうね。一家総出で出かけるのも、おめかしして、タクシーに船を利用して行かれる。美人の人が大勢おられるとのこと、行った甲斐があるでしょうね。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2009-01-24 18:51:32
あら、川本さんも矢張りご覧になりました?黒の礼装でデパートへ行くなんて、そこまでしなくてもと思われたでしょうね。むかしは某女子高卒→山形屋エレベーターガール→玉の輿と言「女性のエリートコース」の噂も。あ、川本さんもたしかそうではなかった?
 
 
 
Unknown (kazukokawamoto)
2009-01-24 19:37:38
ああなつかしい昔思い出します。なんだか恥ずかしい20歳の頃の夢だした。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2009-01-25 14:36:50
川本さん、花も羞らうハタチの頃、ミナミの百貨店にお勤めになったわけですね、その思い出のひと時を存分にお味わい下さいませ。
 
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