2008 仏 原題 La Belle Personne 監督 クリストフ・オノレ 出演 ルイ・ガレル レア・セドゥ レンタルDVDで鑑賞
2009年3月のフランス映画祭で上映されたとのこと。字幕に「クレーヴの奥方」に霊感を受けたとある。監督は、サルコジ大統領の同作への侮蔑発言に対抗するため、この部分をあえて追加したそうだ。
神秘的で美しい転入女生徒ジュニス(レア・セドゥ)に色めきたつ学園の人々。これは青春恋愛ドラマと言っても良い。ルイ・ガレルを私が見るのは「恋人たちの失われた革命」以来だが、ここでは、恋多きイタリア語教師(名前がヌムール)の役。相変わらずの美貌だが、教え子を愛する教師の役だからか、初々しさが消えたなあ。レア・セドゥは顔立ちが好き。つんと上を向いた鼻と、吊上がった目は、魔女のようだが、ゴダールの常連アンヌ・イワゼムスキーを思い出させる。ただ、ちらと露出する体は成熟し過ぎで顔と不均衡。
冒頭、白いペンキ塗りの扉が両側に開き、生徒達が出入りして劇が始まる。第一印象はなんと古くて汚れた建物だということだが、これがモリエール女子校だと聞けば「ウヘェ、畏れいりました」と言うほかない。70年以上前に、ボーヴォワールが哲学を教えた学校だ。全体に生徒はイケメン揃いで、スタイルも服装のセンスもいい(パリの街並と調和している)が、ただひとり、色も素材も突拍子もない服を着て、猫背気味なのが、オットー。つまり、原作のクレーヴ殿に当たるわけだ。殿様だから、庶民と違い、ウブでおっとりしている。それだけに一度火がつくと思いつめやすい。かれが終り近く、唄いながら校内を行くシーンは、緊迫感があり素晴しい。
シナリオは、初めに登場人物が一度に紹介され、すこし分りにくい。監督によるとあまり脚本家と打合わせもせず、一日40ページも書き飛ばしたそうだから、各所に綻びが出る。皮肉にも主筋以外のエピソード部分が生き生きしていた。たとえばカフェのマダム・ニコールのたたずまいは伝統のフランス映画らしい。監督によると、前の世代として、両親以外をいれたかったとのこと。ヒロインを除き、アドリブ自由にしたそうだが、ヌムールが恋の悩みを年上の数学教師に打ち明けるシーンは、互いに吹き出して、どうやら映画とは関係ない個人的な話をしているかに見えた。恋文の主を取り違える騒動は原作にもあるが、男の子同士(アンリとマティアス)の喧嘩に刃物が出て来て警察沙汰になるところなどはなかなかの心意気が感じられる。むしろ、こちらの方が主役3人の関係より自然で迫力もあると思ったが、監督も、自分は同性愛を重視していると明言している。
去って行くヒロインが、船の甲板で後姿しか見せないのだが、素朴な服装は魔女から16歳の少女に戻ってしまったようでいじらしい。
→映画「美しい人」10-8-10
レア・セドゥ→「ミッドナイト・イン・パリ」14-8-5「美女と野獣」14-11-12「アデル、ブルーは熱い色」15-3-18