

このバラの名は「マリア・カラス」
2002 伊仏英ルーマニア 108分 原題 CALLAS FOREVER 監督 フランコ・ゼフィレッリ 出演 ファニー・アルダン ジェレミー・アイアンズ レンタルDVD 78点
映画化されたものは別として、生のオペラ鑑賞はしたことがなく、さっきまで女優のマリア・カザレスとマリア・カラスとを混同していた位であるが、一応この名前には聞き覚えがある。多分、黒柳徹子がたびたび言及しているせいだろう。(彼女は日本で唯一人マリア・カラスを演じた舞台女優であり、唯一度の日本公演1974年10月@NHKホールを観たことがあるという。)
オペラ歌手として世界に君臨したものの、造船王オナシスの恋人になり、豪奢な生活に溺れて本業をおろそかにし、その恋も彼とケネディ元夫人との結婚で破れるなど、スキャンダルの部分だけが注目され、彼女の真実の姿は世の人に伝わっていなかった。同じ1923年生まれで、ずっと友人だったフランコ・ゼフィレッリが、たまりかねて彼女の偉業と真実を後世に伝えようと、80歳を目前として作った映画。(想い出と想像に基づいて作ったそうだ)彼女の芸術家としての良心と精進、妥協を許さぬ姿勢、それが良く現われている。数々のアリア、特にカルメンはかなり長時間楽しめる。
ファニー・アルダンの演技と、吹替えになっていた全盛期のカラスの歌も勿論良かったが、私にとって何よりの収穫はジェレミー・アイアンズ。彼の役はカラスの友人でゲイのプロモーター(ラリー・ケリー)だが、50代半ばになろうとしているのになんとも素晴しい肉体だ。マッサージ室とかベッドでのシーンもあるが、最近の映画のように露骨なプロレスまがいの組んずほぐれつでなく、省略が多くソフトでロマンティックな印象。贅肉一つ無い細身の長身は芸術品なみである。日頃は顔のしわを隠さない彼だが、メイクによって20歳は若返っており、背筋が伸びてファニー・アルダンと歩くシーンは実に美しい。若い男を誘惑する粋なやり方、ゲイを「鑑賞」したい方にはおすすめである。
カラスは1977年に53歳で死ぬが、この映画はその直前を描く。恋人の青年に去られたラリー・ケリーと公園で腰をおろしながらマリア・カラスが「もっと普通の人生も送れただろうに、あなたも私も」と述懐するシーン、人生の黄昏に差し掛かったふたりの、性を超えた友情を感じさせ、しみじみとした味わいがある。全体としてオペラ特有の高貴な情熱に溢れ、俗っぽさからは遠く、さすがはゼフィレッリ!と立ち上がって拍手したくなった。この数年あとに「マリア・カラス最後の恋」と言う作品が登場し、性懲りもなく、オナシスとの関係を下世話な視点で描いたらしいが、見るまでもなく、軍配はこちらに上げたい。