goo

暗号名はメアリ

中秋の名月 9月21日午前4時35分撮影

副題 ≪ナチス時代のウィーン≫ 著者 ミュリエル・ガードナー 1994晶文社 初出 1983 訳者 小池美佐子&四條順子 原題 CODE NAME”MARY”ーMemoirs of an American Woman  in the Austrian  Undewground” 

ミュリエル・ガードナー(1901~1985)は映画「ジュリア」のモデルと言われ、1930年代のウィーンの反ナチ運動に身を投じたアメリカ人女性。その暗号名「メアリ」は多くの人びとにとって、生きのびるための唯一の希望だった。彼女は自分のアパートを隠れ家に提供した。偽造パスポートをコルセットに隠し、検問をすり抜けた。地下活動資金を調達し、亡命者たちの身元引受人となった。緊迫した日々の「真実」を、端正な筆致で自ら綴る、感動のヒューマン・ドキュメント。

と、カバーにある。実は先日、「ジュリア」を読んで、著者リリアン・ヘルマンがあの危険な資金運びに参加したわけでもなく、ジュリアという友はいなかったと知ってショックを受け、実際はどうだったのかを知りたくて読んだ。

タイトルからは、気軽に読めるスパイ小説のようだが、単なる娯楽を求めると失望するだろう。1973年「ジュリア」が発行されたとき、あれはあなたのことでしょう?と多くの人に言われ、著者は以前から書こうと試みてはうまく行かなかった自伝の執筆にとりかかる。それまでは「プライバシーの感覚と、精神分析家、医師、そして教育家として秘密を守るべく受けた訓練とが邪魔し」て、多くのことをあけっぴろげに書くことが出来ず、書いたものに満足できなかった。この点、ビアンカ・ランブランを思わせる。

本書は主に1934年から39年までの滞欧時代に照準が合っている。著者は、シカゴの裕福な家庭に生れ、お城のような家に大勢の召使に囲まれて育つ。社会に格差があることに気付いてからは贅沢と縁を切ることにつとめ、毛皮や宝石や、お気に入りの服を友人に与え、豪華本を売り払って義捐金に寄付した。

「わたしは物質的な所有物にはほとんど心を煩わされない、という目標を達成するのに成功した」

冬に冷たいシャワーを浴び、床に寝、腕時計は持たずに体内時計の感覚を開発した。本を所有するのと同じくらい、図書館の本を読むのを好んだ。絵は自宅の壁にかけるより、美術館で見る方を好んだ。

ウェルズリー大学を卒業後オクスフォード大学で学び、ウィーン大医学部でフロイドの孫弟子として精神分析を学び、34年以降ナチスの支配下で、非合法の抵抗運動を戦い、39年に帰米後は精神分析医として治療・教育・矯正施設でのボランティア活動に献身する。

彼女は人生のどの場面でもいかにも心豊かに生きてきたように見える。なかでも、8歳年下の英国詩人スティーブン・スペンダーは同性愛者だが彼が初めて愛した女性だったとか、悪名高い二重スパイのキム・フィルビーと遭遇し危険な任務を与えられるなどは特に興味深い逸話である。

「ジュリア」21-10-18

「ボーヴォワールとサルトルに狂わされた娘時代」21-1-31

「ケンブリッジ・スパイ」16-10-31

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 仲畑流万能川柳 映画「デンマ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。