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楊沫「青春の歌」


1977 青年出版社 (初出1958)
著者 楊沫 訳者 島田政雄・三好一

50年前に大阪で、30年前に東京で映画「青春の歌」(1959)を見ている。
記憶にあるのは、冒頭、美しくはかなげなヒロインが入水自殺しようとして、インテリ男性に救われ、結婚する。しかし彼女は穏かな家庭の幸福に飽き足りず、共産主義に目覚め、家を飛び出す。学生と教職員からなるデモに労働者が加わる終幕は感動的だった。そのシナリオを書いたのは原作者だとか。

島根大学図書館の書架にあったので借りたが、まず全3冊という長さに驚いた。むかし読んだものはもっと短かった。あとから、いくつかの章を追加したそうである。
作家の楊沫(1914~1995)は女性である。この小説は1931-1935年の中国が舞台で、ヒロインは18-22歳、ほぼ彼女の人生に重なっている。自伝的小説と言えるかもしれない。

ヒロイン林道静、父は地主で彼女は庶子である。白い服を好むのを「白衣の天使」とか、楽器が好きなのを「笛吹仙女さま」とか表現し、身体はなよなよと細く容貌は美しく魅力的に描かれていることからすると、著者は相当のナルシストであろうか。

彼女を導く共産党員・芦嘉川への想いは思春期の少女が担任の先生や従兄に抱くものと似ている。

舞台は首都から農村へと広がり、登場人物も学生・農民・地主、政治的には共産党や国民党、と幅広く豊富である。文章自体はしまりがなくうまいとは思えない。ナルシシズムやロマン主義が邪魔をしているのではないか。
最初の男(夫)余永沢が彼女に語るのは小デュマの「椿姫」ユゴーの「レ・ミゼラブル」トルストイの「戦争と平和」ハイネ・バイロンの詩であり、彼女をイプセンの「人形の家」のノラよりも勇敢だとほめたたえる。

時代は満州事変あたりから始まるので、日本人として興味をひかれる。また特に女性や知識階級の弱さが十分にえがかれている。冒頭に肖像写真があるが、その面影は林道静の繊弱な美しさとはちがい、文化大革命を経て生き残った彼女の逞しさを感じさせるものだ。

こちらも青春の歌だが……
 →「湖岸に青春の歌を聞く」9-6-10
→「心さわぐ青春の歌」11-2-14


 

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